6/15にリリースされたコンピレイション『Folky-Mellow FM 76.4』は、もう聴いていただけましたでしょうか。僕にとっては“2014上半期ベスト”דニック・ドレイク・トリビュート”という、とても思い入れ深い一枚なので、ぜひ皆さんに聴いていただけたらありがたいです。
そして7月は、Free Soul 20周年記念盤のリリースが続くこともあり、(それ以外のことも含め)書きたいことが山ほどあるのですが、ただいま時間がありません。来週中にはいろいろとお伝えしたいことを、きちんとこのブログに記そうと思っていますので、それまでは下記のトピックをじっくりとお読みいただければ幸いです。
『Free Soul Windy-City』〜『Free Soul Motor-City』〜『Free Soul Crazy Ken Band』、どれも本当に最高すぎです。続いての『Free Soul. the classic of The Stylistics』〜『Diggin’ Free Soul ~ Mixed by MURO』(ライナーの橋本徹×MUROスペシャル・インタヴューを掲載しておきます)もお楽しみに。「Toru II Toru」通信の僕の2014年上半期ベスト15枚もありますよ。それでは!
追記:
追悼ボビー・ウーマック。心よりご冥福をお祈りいたします。『Free Soul. the classic of Bobby Womack』から彼の曲もたくさんかけた先週末の北海道DJツアーは、忘れられないものになりました。
そして7/1には、いよいよ
「usen for Free Soul」がスタートしました。ボビーの名作も数多く流れる、最高の音楽チャンネルになっていると思いますので、
「usen for Cafe Apres-midi」と共に、末永くよろしくお願いします!
『Free Soul Windy-City〜Brunswick Treasure』ライナー(橋本徹)
『Free Soul. the classic of Brunswick』を編んだのは2000年秋。14年近くのときを経て、言わばそのアップデイト・エディションとなる『Free Soul Windy-City〜Brunswick Treasure』を、改めてまっさらな気持ちで選曲した。
サウンド・オブ・ヤング・アメリカ──輝かしいモータウンを讃えるキャッチ・フレーズとして知られるこの惹句は、風の街シカゴで育まれた、チェス〜カデット/オーケイ/カートムといったレーベルのソウル・ミュージックを若々しくソフィスティケイトさせたような、ブランズウィックとその傘下レーベルの音楽にも相応しいと思う。スタート期の大スターだったソウルのパイオニアのひとりジャッキー・ウィルソン(僕は彼の歌を聴くといつも、ヴァン・モリソンが作りデキシーズ・ミッドナイト・ランナーズもカヴァーした「Jackie Wilson Said」の、“I'm in heaven when you smile”という一節を思い浮かべてしまう)や、70年代を迎える頃から屋台骨となったプロデューサーのカール・デイヴィス(ポップスの古典やバート・バカラックも愛する彼の趣味は、レーベル・カラーに大きな影響を及ぼしているはずだ)と、メロディアスなソングライターとしても抜群に素晴らしいユージン・レコード(彼が率いるコーラス・グループ、シャイ・ライツはレーベルの看板アーティストと言っていいだろう)。あるいは多くの作品でバック・トラックを担当して粋で洒落たリズム・アンサンブルを聴かせたヤング・ホルト・アンリミテッドに、都会的で華やいだジャズ・ファンク・グループの宝庫という感じの70年代半ばの作品たち……。ブランズウィックにはソウル青春期の瑞々しさと甘酸っぱいポップ・センスが息づいている。
溌剌と弾けるような、躍動するアップタイトなビート、ポジティヴに舞い上がる多幸感あふれるメロディー。ここに収められた音楽は、デトロイトのホット・ワックス/インヴィクタス・レーベルなどと共に、Free Soulという言葉が宿している熱い思いときらめくような輝きをそのまま体現してくれている。聴いているだけで胸が熱くなり、心が晴れやかになってくる。なんか「俺もがんばろう」という気になってくるのだ。かつてレーベルの広告ページに掲げられていたフレーズに倣うなら「元気はつらつブランズウィック」。次から次へとはまさにこのこと、80分以上にわたって完璧な流れを組めたと思う曲順と相まって、シカゴ・ソウル黄金時代の名作選として、最強のコンピレイションを作ることができたのではないかと確信している。
今回のセレクションでは、楽曲の使用許可に時間がかかるとされたボハノン以降に活躍したアーティストたちは選外としたが、『Free Soul. the classic of Brunswick』には収められなかったニュー・エントリーを6曲選んでいる。ベン・モンローのシングル・オンリーの知る人ぞ知る至宝「Broken Home」(トータル・プレイング・タイムが許せば、タイロン・デイヴィスのシングル曲「All The Waiting Is Not In Vain」も入れたかったが)、コロンビア出身の男性シンガー・ソングライター、ハーマンによるスティーヴン・スティルス作品をメドレーのように織り込んだ「Love The One You're With」の伸びやかに疾走するナイス・カヴァー、アレサ・フランクリンの好ヴァージョンもFree Soulファンには人気の「It Only Happens When I Look At You」のジャッキー・ウィルソン版。Free SoulのDJパーティーでは以前からよくプレイされていたものの、『Free Soul. the classic of Brunswick』セレクト時には惜しくも選にもれた、ストラット「Said You Didn't Love Him」とオデッセイ5「Peace Of Mind」も晴れて収録。そしてシャイ・ライツも、その頃はまだビヨンセ & Jay-Z「Crazy In Love」のサンプリングによって定番化していなかった、「Are You My Woman?」を満を持して。
マリアン・ファーラ&サテン・ソウルを始めとするブランズウィックの名曲群に対する、僕の深い思い入れについては、『Free Soul. the classic of Brunswick』ライナーを再掲するので、そちらを読んでいただけたらと思う。自分でも10年以上ぶりに読み返してみたが、なんだか文章まで甘酸っぱく瑞々しい。ヤング・ソウル、エヴァーグリーン……、言葉は何でもよいのだが、僕はこの胸疼く感じが好きなのだ。
Free Soulファン歓喜のキラー・チューンや秘宝はもちろん、モッド〜ノーザン・ソウルの人気曲も多数収録された、グルーヴィー&メロウな珠玉のシカゴ・ソウル・コンピレイション『Free Soul Windy-City〜Brunswick Treasure』、ぜひ繰り返し聴いて楽しんでいただけたら嬉しい。
『Free Soul. the classic of Brunswick』のリリースに寄せて(橋本徹)
ブランズウィック・レーベルのコンピを選曲できるなんて、なんて幸せなことだろう。いまもアドヴァンス・カセットを聴きながら、心の動きを抑えることができない。エヴァーグリーンの潤いとヴィンテージの気高さ。Free Soulという言葉が宿しているイメージの原点とも言うべき瑞々しい生命力に彩られた音楽がここにある。その、もうひとつのヤング・サウンド・オブ・アメリカへの思いは、どんなに言葉を尽くしても書き切ることはできないだろう。でも大丈夫、ここに収められた音楽さえあれば、言葉なんて必要ないはずだから。
バーバラ・アクリンの「Am I The Same Girl」。何も言うことはない、選曲の話をいただいたときから、オープニングはこれと決めていた。スウィング・アウト・シスターのカヴァー・ヒットで知られ、Free Soulのフロアでは、女性ジャズ歌手サリナ・ジョーンズのヴァージョンでも熱狂的に支持された。
そのインスト版、ヤング・ホルト・アンリミテッドの「Soulful Strut」はNHK「軽音楽の手帳」のテーマとして知った、ぼくにとってブランズウィックとの出会いとなった思い出の曲。ビースティー・ボーイズがサンプリングしたときは涙が出た。「Young And Holtful」はその変奏。
ブランズウィックでは最もハード・トゥ・ファインドと言われるダイレクションズの名曲が「We Need Love」。やはりFree Soul人気曲のフレディー・マクレガー「That Girl」は、この曲と「Am I The Same Girl」への最高のオマージュ。続くロスト・ジェネレイション「Love Land」はワッツ・103rdストリート・リズム・バンド、スパンキー・ウィルソンのヴァージョンでも人気を集めるシーンの定番的傑作。
シャイ・ライツの「When Temptation Comes」はユージン・レコードのソロとなってからの名作「Overdose Of Joy」の雛形。軽快なギターのカッティングが心地よい。「Too Good To Be Forgotten」にも息づく彼のソングライターとしてのポップ・センスが、“スウィート・コーラス・グループ”というシャイ・ライツの印象を一新してくれた。多くのブラック・アーティストにカヴァーされ続けているマーヴィン・ゲイのニュー・ソウルの古典「Inner City Blues」も、ロンドンのジャズDJたちがヘヴィー・プレイした好ヴァージョン。
ジンジ・ジェイムスやダナ・ヴァレリーは、バーバラ・アクリンに負けないキュートな個性の持ち主。こうした胸がキュンとするような甘酸っぱい女性ヴォーカルの魅力も、このレーベルならでは。
躍動感みなぎるジャズ・ファンク・バンド、ステップ・バイ・ステップの演奏からは、音楽の喜びを身体いっぱいに享受している様子が伝わってきて嬉しくなってしまう。このギターの刻み、そしてホーンの鳴り。まさに“Hopeful”な音楽だと思う。
カール・デイヴィスと並ぶブランズウィックのキー・パーソン、ウィリー・ヘンダーソンによるアーチーズ「Sugar Sugar」のカヴァーは、Suburbia初期の頃からの定番。フロアに光が射す、バブルガム・ジャズ・ファンク。昔はこんな曲ばかりかけていた。
ジャッキー・ウィルソンの「Let's Love Again」はヴェテラン会心の一曲。胸のすくような伸びやかな歌声。いわゆる“ジョニー・ブリストル・タイプ”。
そして究極のメロウ・グルーヴ、マリアン・ファーラ&サテン・ソウル「You Got To Be The One」。朝方間近のダンスフロアで何度となくスピンしたけれど、聴くたびにいろんな思いがこみ上げてしまう。懐かしい友だちとの幸福な音楽の瞬間。かけがえのないFree Soul Undergroundのフラッシュバック。続く「Living In The Footsteps Of Another Girl」、ジャムやリューベン・ウィルソンのカヴァーでも知られる「Stoned Out Of My Mind」は、共にシャイ・ライツとの競作。でも、ぼくはこのマリアン・ファーラのヴァージョンを愛している。
エリミネイターズの「Loving Explosion」はKC&ザ・サンシャイン・バンド「Ain't Nothin' Wrong」と並び称されるトゥー・ステップ・ソウルの傑作。ブランズウィックの看板シンガー、タイロン・デイヴィスは実は「Can I Change My Mind」以外にもガッツあふれる“モッド・ビート”ないい曲がたくさんあることを、「Could I Forget You」と「Come And Get This Ring」で示せたと思う。ぼくは彼独特の、あの語り口が好きなのだ。
大学生のときケントのノーザン・ソウル・コンピで知ってすぐにオリジナルを探したバーバラ・アクリンの「I'll Bake Me A Man」は、まさにFree Soul Generationのためのアンセム。思わず口ずさんでしまう印象的なコーラス、そしてサビのリフレイン。イントロから胸の疼きを止めることができない。
レア・グルーヴやアシッド・ジャズに夢中になっていた90年代初頭に、イグジット9やストラットに象徴される70年代ブランズウィックのファンキーでグルーヴィーな作品群と出会えたことも幸せだった。だってブラン・ニュー・ヘヴィーズやジャミロクワイが好きなら間違いないでしょ? いま聴いてもそんなレコードを取り憑かれたように聴いていたあの頃の新鮮な気持ちがよみがえる。
ロスト・ジェネレイションの「This Is The Lost Generation」は、隠れ名曲No.1と言えるだろうか。スピリチュアルな歌と、抑制されたグルーヴ。やはりマーヴィン・ゲイ「What's Going On」の影響がうかがえるけれど、ぼくはマザー・アースの「Jesse」を初めて聴いたとき、まずこの曲を連想した。今回のコンピは、Free Soulのフロアを華やいだ表情で彩ってくれた名曲集、という観点から選曲したのだけれど、ブランズウィックにはこうしたタイプの聴くほどに味わいを増す傑作も潜んでいるので、いつの日か第2集が登場することを期待したいと思う。
そしてエンディングを飾るアーマ・フランクリンの「Light My Fire」は、もちろんドアーズの名曲カヴァー。姉アレサ譲りのソウルフルな歌声が素晴らしい。デ・ラ・ソウルの「A Roller Skating Jam Named “Saturdays”」でお馴染みのあのフレーズも聴ける。ラウンジ・ジャズ風味のアンサンブルが絶品なヤング・ホルト・アンリミテッド版も、プレイング・タイムが許せばぜひ収録したかった。
感傷と思い入ればかりが先に立って、ちょっと入れ込みすぎの文章になってしまった。でも、ぼくがブランズウィックのソウル・ミュージックからもらった勇気──その言葉が放つポジティヴな輝き、夢と希望について、まだ全然書けていないような気がする。本当に、この音楽が流れている間は人生──青春と言いかえてもいいかもしれない──が光り輝いているように思えた。ぼくの20代の最も楽しく、甘く切ない瞬間が詰まったコンピ、なんて言ったらやっぱり入れ込みすぎで恥ずかしいですが。
『Free Soul Motor-City〜Hot Wax & Invictus Treasure』ライナー(橋本徹)
『Free Soul. the classic of Hot Wax & Invictus』を編んだのは2003年初頭。11年半のときを経て、言わばそのアップデイト・エディションとなる『Free Soul Motor-City〜Hot Wax & Invictus Treasure』を、改めてまっさらな気持ちで選曲した。
サウンド・オブ・ヤング・アメリカ──60年代にモータウン黄金期の立役者となった音楽史上屈指のソングライター&プロデューサー・チーム、ホーランド=ドジャー=ホーランドが、70年代を迎え聖地デトロイトからロサンゼルスへ拠点を移すモータウンを尻目に、ホーム・タウンである自動車の街デトロイトで旗揚げしたレーベルがホット・ワックスとインヴィクタス。その両者とは兄弟レーベルながら、2003年当時は権利関係が一本化されていなかったミュージック・マーチャントの作品も、今回セレクト可能となったのは、その音源のレアリティーという観点からも特筆すべきトピックだ。僕は大喜びして、ブラザリー・ラヴ2曲/ジョーンズ・ガールズ/ブレンダ・ハロウェイといった、稀少かつ素晴らしいシングル・オンリーの名作をフィーチャーした(エロイーズ・ロウズのシングル「You Made Me An Offer I Can't Refuse」は、トータル・プレイング・タイムの都合で惜しくも選にもれてしまったが)。つい先日、このコンピレイションのアドヴァンスCD-Rを聴いていて、ジョーンズ・ガールズの「You're The Only Bargain I've Got」が流れてきたときには、不覚にも涙が出てしまった。
さらに、ホット・ワックスのシングル・オンリー曲である、エドナ・ライト脱退後のハニー・コーンでシャロン・キャッシュがリード・ヴォーカルをとる「Somebody Is Always Messing Up Good Thing」は、裏面の「The Truth Will Come Out」も絶品なので(あのラリー・レヴァン・ミックスも最高の爽やかダンサー、ジャニス・マクレイン「Smack Dab In The Middle」を連想するのは僕だけだろうか)、サイレント・マジョリティーのメロウなシングル曲「Frightened Girl」と共に、新たにエントリーした。次から次へとはまさにこのこと、80分以上にわたって完璧な流れを組めたと思う曲順と相まって、華やかなりし日のデトロイトのソウル・ミュージック傑作選として、最強のコンピレイションを作ることができたのではないかと確信している。
溌剌と弾けるような、躍動するソリッドなビート、ポジティヴに高揚する多幸感あふれるメロディー。ここに収められた音楽は、シカゴのブランズウィック・レーベルなどと共に、Free Soulという言葉が宿している熱い思いときらめくような輝きを、そのまま体現してくれている。聴いているだけで、胸が熱くなり、心が晴れやかになってくる。なんか「俺もがんばらなくちゃ」という気持ちにさせてくれるのだ。かつてのハニー・コーンの邦題に倣うなら「希望に燃えて」。
フリーダ・ペインを始めとするホット・ワックス/インヴィクタスの名曲群に対する、僕の深い思い入れについては、『Free Soul. the classic of Hot Wax & Invictus』ライナーを再掲するので、そちらを読んでいただけたらと思う。自分でも10年以上ぶりに読み返してみたが、なんだか文章まで甘酸っぱく瑞々しい。ヤング・ソウル、エヴァーグリーン……、言葉は何でもよいのだが、僕はこの胸疼く感じが好きなのだ。
Free Soulファン歓喜のキラー・チューンや秘宝はもちろん、モッド〜ノーザン・ソウルの人気曲も多数収録された、グルーヴィー&メロウな珠玉のデトロイト・ソウル・コンピレイション『Free Soul Motor-City〜Hot Wax & Invictus Treasure』、ぜひ繰り返し聴いて楽しんでいただけたら嬉しい。
『Free Soul. the classic of Hot Wax & Invictus』のリリースに寄せて(橋本徹)
「ノーザン・ソウルの金字塔」──デトロイトの名門レーベル、ホット・ワックス/インヴィクタスの魅力を語る際の常套句だけれど、そのポジティヴでホープフルな永遠に瑞々しいサウンドに触れるとき、いつもその言葉に深くうなずきたくなる。
血の通った音楽のもつ生命力。躍動感と高揚感にあふれたビート。歌手たちは皆、心の奥底から声を出している。エモーショナルかつエネルギッシュ。これほど聴いていて元気が出る音楽があるだろうか。
この『Free Soul. the classic of Hot Wax & Invictus』の選曲は、そんなレーベル・カラーを反映して、ストライク・ゾーンのど真ん中に快速球を投げ込むような、爽快なくらい胸のすくような作業だった。まさにこれぞ王道。Free Soulのフロアで圧倒的な輝きを放った、眩いほどにボッブ性がきらめく必殺ノーザン・ダンサーのオン・パレード。このレーベルの第一印象──心弾む感じ、勇気づけ奮い立たせてくれる感じを大切にしながら、その魅力を完全パッケージしたつもりだ。選曲中に何度も、ラスカルズやソウル・ジェネレイションが歌った「Ray Of Hope」という曲を思い出した。
オープニングから胸が熱くなり、ギュッと締めつけられるフリーダ・ペインの「Cherish What Is Dear To You」は.Free Soul Undergroundを彩った究極のアンセム。永遠の青春メロディーと躍動するリズム。ブロッサムズのカヴァーも忘れられない。「We've Gotta Find A Way Back To Love」も全てが完璧な一曲。この曲のヴァリエイションを求める中でぼくは、あのレイド・インクの「What Am I Gonna Do」などの名曲群に出会ったのだ。日本ではボニーピンクがリメイクしている。「He's In My Life」「I Shall Not Be Moved」も“インヴィクタスのダイアナ・ロス”の面目躍如たる胸キュン・ナンバー。小沢健二が引用した「Unhooked Generation」はイントロからフロア沸騰のキラー・チューン。名曲にして大ヒット「Band Of Gold」はその絶妙なスウィング感、ベース・ラインをFree Soul Undergroundに遊びに来たカメール・ハインズが絶賛していたのを昨日のことのように思い出す。
ハニー・コーンは“ホット・ワックス版ジャクソン・ファイヴ味シュプリームス”(by 山下洋)。「Want Ads」はつまり「I Want You Back」クラスの傑作で、ダンサブルな再演ヴァージョンも繰り返しプレイされた。やはり名盤『Soulful Tapestry』からの「One Monkey Don't Stop No Show」「Don't Count Your Chickens」「Stick-Up」も文句なしのフロア・キラー、マルチさえ残っていたら、リミックス盤が企画されていたに違いないのに。「Sunday Morning People」はデトロイト屈指のファンキー・ソウル。リード・シンガーのエドナ・ライトはソロになってからの名作「Oops! Here I Go Again」もFree Soulファンの間では絶大な人気を誇っている。その彼女に代わっでシャロン・キャッシュが歌う「Somebody Is Always Messing Up A Good Thing」は、ハウス・ミュージック前夜を思わせるパッションとエモーションに満ちた貴重なシングル・オンリー曲、ガラージ・フリークにもぜひお勧めしたい素晴らしさだ。
エドナ・ライトにも匹敵するパール・ジョーンズのパワフルでソウルフルな女性ヴォーカルにノックアウトされる「Touch Me Jesus」「Don't Let It Rain On Me」も絶品。グラス・ハウスにはさらにタイ・ハンターとシェリー・ペインという素晴らしい歌手が在籍していたこともお忘れなく。フリーダ・ペインの妹であるシェリーは後に、Free Soulシーンではダイアナ・ロスやコートニー・パイン・フィーチャリング・キャロル・トンプソンのヴァージョンで完全にクラシック化している「I'm Still Waiting」を可憐に吹き込んでいることも付け加えておこう。
スタイル・カウンシルの『Our Favourite Shop』にアルバム・ジャケットが写っていて興味を惹かれたチェアメン・オブ・ザ・ボードは、何と言っても「All We Need Is Understanding」が最高。リーヴァイ・スタッブスやジャッキー・ウィルソンの姿がオーヴァーラップするジェネラル・ジョンソンの歌声に映えるハモンド・オルガンとコーラス。TOKYO No.1 SOUL SETがサンプリングしていた。“インヴィクタスのフォー・トップス”と言われた彼らのレパートリーからは、スタイル・カウンシルがカヴァーした「Hanging On A Memory」と迷ったが、レーベルの記念碑的ヒット曲として同タイプの「Give Me Just A Little More Time」も。チェアメン・オブ・ザ・ボードはやはりジャッキー・ウィルソンの影響を感じさせるダニー・ウッズがリードをとる楽曲も素晴らしいので、ぜひごー聴を。
友人でDJ仲間の山下洋が率いるフリーダム・スイートがかつて、クルーエル・レコードのコンピ『Hello Young Lovers』でカヴァーした「Why Can't We Be Lovers」も、レーベルの主役ラモン・ドジャーがジャッキー・ウィルソンを彷彿とさせる熱い歌を聴かせる。まさに男の熱情ソウルの最高峰。70年代を代表するジャズメン、ロニーとヒューバートのロウズ兄弟の妹、エロイーズ・ロウズの「Ain't It Good Feeling Good」は究極のメロウ・グルーヴ。20年早かった麻薬のようなリズム・トラック、と誰かが言っていたが、全く同感。カートム・サウンドしかり、ぼくは70年代半ばの乾いたリズム隊が大好きなのだ。
初期Pファンクの素顔を記録したパーラメントの作品が残されているのも、このレーベルの大きな遺産だ。デ・ラ・ソウルのサンプリングで知られる「Little Ole Country Boy」は、ヨーデル・ヴォイスをフィーチャーしたファニーな高揚感が抜群にグルーヴィー。シングルでリリースされた「Breakdown」は、Pファンク・サウンドの原型が垣問みれるブレイクビーツ入りファンク。ぼくは当時のジョージ・クリントンとルース・コープランドがどんな男女関係にあったのか、今もどうしても気になる。
やはりホット・ワックス/インヴィクタスのファンキーでロッキッシュな側面を代表するのが、フレイミング・エンバーやルシファーといった存在。ブラッド・スウェット&ティアーズのカヴァー「Spinning Wheel」は、そのディープな解釈が本家以上にカッコ良い。ぼくが昔から好きな「The Empty Crowded Room」は、聴くほどに滋味深い隠れた名曲。スリリングな「Time Gonna Change Everything」は、モーウェスト──あの「Battened Ships」のオデッセイを生んだモータウンの傍系──と似通ったレーベルのカラーを象徴する一曲と言うことができるかもしれない。
一方でホット・ワックス/インヴィクタスは、ソウル・ミュージックのオーセンティックな魅力が横溢する楽曲の宝庫でもあり、ローラ・リーやメルヴィン・デイヴィス、サティスファクション・アンリミテッドの歌にその本領を感じとることができるはずだ。「Women's Love Right」はメッセージ色の濃いローラ・リ一の代表曲。タイム・オーヴァーで惜しくも収録を断念した「Clumbs Off The Table」のファンキーなカッコ良さも忘れ難い。「You Made Me Over」はエイス・デイというグループでの作品もソウル愛好家の間で名高いメルヴィン・デイヴィスがソロ名義のシングルとして残した極めつけの傑作。「Bright City Lights」はカーティス・メイフィールドやアイズレー・ブラザーズのメロウ・サイドを思わせる、アコースティックなソフト・サウンディング・ソウルの逸品だ。
ぼくがモータウンについでソウル・ミュージック初期体験の中で出会ったレーベルのひとつがホット・ワックス/インヴィクタス。その中枢であり屋台骨となった名ソングライター・チーム、ホーランド=ドジャー=ホーランドについての詳細を始めとするレーベルのヒストリーは、信頼するJAM氏のライナーノーツに譲ろう。まずはこのCDに収められた素晴らしい音楽を繰り返し繰り返し聴いてもらえたらとても嬉しい。“70年代版「サウンド・オブ・ヤング・アメリカ」”とでも言うべきその輝ける魅力をきっと実感してもらえるはずだから。
『Free Soul Crazy Ken Band』ライナー(橋本徹)
「OYA-Gになってから選曲できて本当によかったな」──心からそう思う。
『Free Soul Crazy Ken Band』には、大人であることのカッコよさとつらさ、楽しさと切なさ、甘さと苦さが詰まっている。ときには、ほろ苦く、切なすぎる瞬間さえも。そして、夏の"刹那"感も。
身につまされる歌詞と、最高に心地よいサウンド。まさにナイス・ミドル・メロウ。「俺にとっての40代のサウンドトラック」──そんな気障な台詞さえ口走ってしまいたくなるほど。
"CRAZY Urban-Mellow"と題したディスク1は、冒頭の「タオル」から、これ以上は考えられないサマー・ドライヴ・ミュージック名作が続く。メロウ・ブリージン&カンファタブル・クルージング。合言葉は「考えるな 感じろ今」。"Mellow"で"Slow"な"Groove"に乗って「夕陽と走るぜ ベイ・ブリッジまで」。そう、「ハマ風」や「ABCからZまで」にも象徴されるように、海辺をドライヴしたくなるような快適なグルーヴ。聴いていると僕は、1995年に編んだアイズレー・ブラザーズのコンピ『Mellow Isleys』と『Groovy Isleys』を思いだしてしまう。
「7時77分」あたりからは次第に、より湿気と気だるさを含んだ夏の夜の空気を思わせる、メロウ・マッドネスな情景へとグラデイションを描いていく。我が愛してやまないOYA-Gラヴ・ソング「ガールフレンド」と「37℃」によって、ジャクソン・シスターズ&ジャクソン・ファイヴへのオマージュ「空っぽの街角」を挟み、艶めかしく揺れるエレピの気持ちよい絶品のミッド・メロウ・グルーヴが連なっていく。ソウル・ミュージック愛好家なら、マーヴィン・ゲイやダニー・ハサウェイ、あるいはレオン・ウェアなどを思い浮かべ、恍惚となる瞬間もあるだろう。そして忘れてはいけない、デュエットでもコーラスでも、僕はSGWの歌声がたまらなく好きなのだ。
ポジティヴな音楽愛にグッと来る「SOUL通信」を合図に、「感じたもの全部 メロディーに変換」して、グルーヴィーにシフト・チェンジ。「箱根スカイライン」から「透明高速」へと、風を切って走るドライヴィンな至福の並び。そしてディスク1は、スタイリスティックスを彷彿させる男の哀愁滲むナンバー「ま、いいや」でエンディングを迎える。
"CRAZY Urban-Groove"と名づけたディスク2は、バリー・ホワイト流儀の華やかなオーケストラ・スタイルの、CKB版「My Way」とでも言うべきマニフェスト「男の滑走路」に始まる。めくるめくようにつながる「レコード」は、音楽マニアなら誰もが身に憶えがあるだろう心情が綴られたラヴ・ソング。「狂おしい夏の記録 探してる珠玉のSpecial One」という最後の一節に深くうなずいてしまう。ミラクルなエレピのイントロから、多幸感に満ちたメロディー&ハーモニーが広がるのは、その名も「音楽力」。メロウなヴァイブが混ざり合い溶け合う、多彩なヴォーカル・コンビネイションからは、「メロディーに翻訳して SOUL電波 届けるんだ」という気概も伝わってくる。
「Soulful Strut」を彷彿させるホーン・アレンジに間奏のエレピも快い「僕らの未来は遠い過去」に続いて、ジョージー・フェイム「Eso Beso」を思わせる疾走感に胸高鳴る「ギラギラ」が登場。"Hot Fun In The Summertime"の映像を鮮やかに喚起させる、ワック・ワック・リズム・バンド×ライムスターにも負けないご機嫌なパーティー・チューンで、僕は毎年この曲を聴くと、夏が始まったんだな、と実感する。
70sジャズ・ファンク〜アシッド・ジャズ〜アイズレー・ブラザーズ的な、アーバンに艶めくグルーヴ感で駆け抜ける中盤から、小気味よいボッサ・ビート・リレーを経て、音楽力と人間愛を讃えるCKBのテーマのような「SOULMATE」を機に、ファンキーでウィットに富んだノヴェルティー・ナンバー「Brand New HONDA」へと、セレクションはクライマックスに向けて走り始める。蒼きCKBという風情で、山下達郎ならシュガー・ベイブという感じの70年代的な瑞々しい情感をたたえた「珈琲キャンディー」は、過ぎ去りし遠い夏の幻のような名曲だと思う。
そしてフィナーレは、CKBらしい大らかでロマンティックな人生讃歌・宇宙讃歌「地球が一回転する間に」。懐かしい未来へ希望を馳せてしまう、SMAPにも歌ってほしいようなアンセム。胸に熱いものがこみ上げるのは僕だけだろうか。
15年以上におよぶCKBの歩みを振り返りながら最初に収録希望曲をリストアップしたときには、70曲以上も候補が挙がってしまった『Free Soul Crazy Ken Band』。まさしく断腸の思いで、何とか"Urban-Mellow" "Urban-Groove"の2枚組36曲160分に絞ることができたのだが、惜しくも選にもれた曲たちに触れることは、ここでは特にしなくてもいい気がする。リスナーの皆さんがそれぞれCKBのオリジナル・アルバムを聴くことで、様々に想像を膨らませてもらえたら嬉しい。
音楽的な解説をこれ以上することも野暮だろう。ひと足早くアドヴァンスCD-Rを手にした僕は、このコンピレイションをただただ聴き倒している。「清濁 併せ飲んで それでも聖くありたくて あがいている」大人の音楽。そんな言葉で十分なはずだ。ここにはそう、敢えてありふれた形容で表現するなら、夏の思い出のように胸を疼かせる歌がぎっしり並んでいる。僕が最後に書き添えたいひとことは、やはりこれだ。Don't think, feel!
FREE SOUL CRAZY Urban-Mellow [DISC 1](waltzanova)
1. タオル
『Free Soul Crazy Ken Band』の栄えあるオープニングを飾るのは、暑い夏の到来と甘酸っぱい恋の予感を見事に描き出した、究極のミドル・メロウ・ブリージン。このコンピレイションの空気感も鮮やかに刻印されている。キーワードは歌詞にも出てくる、60年代から活動を続けるレジェンダリー・ソウル・グループ、アイズレー・ブラザーズだろう。この曲に限らずCKBというバンドの根っこには、“アイズレーズ”というのがひとつの共通言語として存在しているように思う。一方フリー・ソウルも、彼らのコンピレイション『Groovy Isleys』『Mellow Isleys』が1995年にリリースされており、そこでの選曲は70年代の音源を中心とした、ファンクだけにとどまらないアイズレーズの再解釈だった。往年のセックス・シンボル(この言葉も死語ですか?・笑)、ファラ・フォーセットの名も登場、ひと夏のベイサイド・アヴァンチュール気分を演出している。“考えるな、感じろ”はCKBの合言葉だが、温度や湿度、匂いなどを音に封じ込める(念写する)のも彼らの得意技である。
2. ハマ風
タイトル通り、ハマ風をいっぱいに受けながら走っているような気分になる、爽快な一曲。メロディー・ラインや節回しには、剣さんの矢沢永吉イディオムが感じられる。剣さんにとって“エーちゃん”が特別な存在なのはファンなら周知の事実だが、キャロル解散後の初ソロ・アルバム『I LOVE YOU, OK』にはA&M〜バート・バカラック的な要素が入っているのが大好きなところだとか。いわゆる不良な面に着目しただけではない切り取り方が剣さんならでは。結婚を題材にしたストーリーは、ラストの「キャッてもいいぜぇ〜」でオチがつく(発音に注目!・笑)のもCKB的。
3. ゆっくり跳ねる音楽
冒頭3曲は、ヨコハマ周辺のサマー・ドライヴにぴったりのナンバーが並ぶ。こちらはベイ・ブリッジを眺めながらの極上のトワイライト・クルージン。テンポといいコード感といい、快感原則のツボ突きまくりの一曲で、その心地よさにひたすら身を任せていたくなる。菅原愛子とスモーキー・テツニによるヴォーカルとコーラスも、車内の恋人たちのスウィートで親密な雰囲気を醸し出すのに貢献している。フリー・ソウルだと、ナイトフライト「If You Want It」あたりの心地よさに通ずるところがあるだろうか。CKBとは切っても切れない街、横浜はアーバン感とリゾート感の両方を併せ持つ場所であり、だからこそ彼らの音楽には映画の一場面のようなドラマティックさがあるのだと思う。
4. あぶく
シュガー・ベイブ〜アイズレーズ「If You Were There」流儀のアレンジがフリー・ソウルど真ん中の楽曲。“あぶく”は、胸に湧き上がるさまざまな感情や心模様を表していると思われるが、サバービア用語(?)で言えば、“サウダージ”と捉えることもできるのではないだろうか。“サウダージ”もまた、胸に去来する切ない郷愁のような想いを指す言葉で、言語化するのがなかなか難しい。百聞は一見に如かずということで、そのものズバリの「Saudade」というピエール・バルーの曲をご一聴いただければ、この言葉のニュアンスが理解できるだろう。
5. ABCからZまで
これまた甘酸っぱい青春のフレイヴァーがまぶされた、スウィートなサマー・チューン。剣さんによれば、元町公園のプールがこの曲のアイディアの元になった場所だそうで、若かりし頃にここで仲間とラジカセを持ち込み、女の子に声をかけたりした思い出が曲に反映されているとのこと。中西“スター”圭一のフルートで、涼やかさとオシャレ感も増し増しに。歌詞やサウンド・メイキングの完成度も含め、剣さん自身もお気に入りの一曲だとか。
6. Precious Precious Precious
60年代後半から70年代前半の手触りを宿したサウンドが、夏の朝の爽やかな空気を思わすブライトなナンバー。歌詞さながらに、風を受けながら海沿いをドライヴしたくなる。「あぶく」に通じるような音作りは、CKBの十八番とも言えるもの。剣さんは「いちばん得意なのはメジャー・セヴンスや、分数コードを多用したスウィートでメロウな曲だ」と語っているが、この曲のみならず本コンピレイションの収録曲は、それが当てはまるものばかりだと言える。
7. 7時77分
マーヴィン・ゲイの永遠の名曲「What's Going On」を彷彿させる、ヴィンテージなニュー・ソウル・アレンジにグッと胸を締めつけられる、『777』のオープナーを務めていたトラック。ストリングスとベース・ラインには特に掴まれるものがある。ロイ・エアーズのサマー・クラシック「Everybody Loves The Sunshine」のように、真夏の眩しさの中で感じる眩暈にも似た感覚がよく表現されている。最後は闇から光へと向かう歌詞世界も、マーヴィン・ゲイ〜カーティス・メイフィールド〜ダニー・ハサウェイ的だ。
8. 37℃
ミステリアスで浮遊感漂うコード進行、エレピの音色も隠し味の、ねっとりとした湿度を感じさせるクール&ホットでメロウ・マッドネスなナンバー。ハイブリッドに組み立てられたトラックはCKBでも屈指の洋楽指数の高さ。剣さんのヴォーカルに絡んで艶っぽいラップを聞かせるのは、CKBの紅一点、“SGW”こと菅原愛子。彼女独特の詞世界も、剣さんとの微妙なズレ感が面白い。よりラヴァーズ風に仕上げられたヴァージョンも聴きもの(10インチ盤もリリースされた)。現在ではiTunes Storeなど配信で聴けるので、気になるファンの方はぜひ。
9. 空っぽの街角
イントロのギター・カッティング、こみ上げ系のメロディー(Cメロの気持ちよさといったら!)など、これもフリー・ソウルど真ん中と言える渋谷系的な要素を多分に含んだ名作。ジャクソン・ファイヴの名曲タイトルがフックのフレーズとなっているのも象徴的だ。1997年のCKBのデビュー作『PUNCH! PUNCH! PUNCH!』に収録されているが、このアルバムは剣さんいわく、CKBの原点にしてすべての要素が入っている作品とのこと。
10. ガールフレンド
三連のリズムがせつない夏の黄昏どきの風景を思い起こさせる、ノスタルジックなムードを漂わせた、狂おしくもメロウな名ミディアム・バラード。心の波紋を描き出すように、全編でフィーチャーされるエレピのサウンドがたまらない。ちなみに、『Free Soul Crazy Ken Band』を編むに当たり、橋本徹さんのインスピレイションの核となったのが「タオル」と本曲だそう。中年オヤGの失恋が情感たっぷりに歌われるが、年齢を重ねたからこそ理解できる経験や感情が描かれている。「この歳になってCKBのコンピレイションを作れて本当によかった」とは橋本さんのコメント。女性目線で夏の終わりのハートブレイクをテーマにした「せぷてんばぁ」もファン人気は高い。
11. DUET
「37℃」と同じように、剣さんと菅原愛子の掛け合いが魅力的な一曲は、そのままズバリ“デュエット”がテーマ。マーヴィン・ゲイ&タミー・テレル、アシュフォード&シンプソンなど、ソウル・ミュージックには男女デュエットという文化があるが、そのようなこともリスナーに想起させる。ブレイクビーツ的なニュアンスを持ったドラム・サウンドも無条件に心地よい。剣さんは一時期から、90年代R&B〜ヒップホップ的な方法論を導入し、自らトラックを作ってそれにメンバーのラップ部分などを割り振るような制作手法を取っているそうだが、その感覚が作品にしっかりと反映されている。
12. Hong Kong Typhoon
失恋した主人公が香港へ傷心旅行に行くという、映画のようなイメージが広がるメロウなミディアム・ナンバー。メロディー・ラインとコード進行のマッチングが生む中毒性は特筆ものだ。CKBには「Sweet Seoul Tripper」など、中国や韓国、インドネシア、タイなどのアジア圏を題材にしたレパートリーも多数あり、ライヴやアートワークなどでもそのようなモティーフが取り入れられることも多い。それは彼らが、中華街のある横浜という、昔からのマルチカルチュラルな港町を拠点としているところから来ているのかもしれない。
13. Hideaway
前曲から続くアジアン・シリーズ。こちらにはガムランやバリハイという単語が登場、東南アジアが舞台となっている。お忍びで行った旅行先のリゾート・ホテルで、スウィートでセクシーな二人だけの時間を過ごす……というちょっぴりアダルトな世界観。CKBの曲は情景や空気を眼前に立ち上げる力を強く持っているのも特徴で、リスナーにフィジカルに訴えかけるマジックがあるという点についても、もっと語られていいのではないだろうか。
14. 赤と黒
前曲に続き、ややアダルトな雰囲気を持つソウル・ナンバー。歌詞に出てくる“真っ赤なライト”は、TLCの「Red Light Special」を連想させるが、剣さんにとってその曲が収録された『CrazySexyCool』(1994年)は愛聴盤であり、“レッド・ライトな怪しいムード”も好みだと語っていた。剣さんはディアンジェロやエリカ・バドゥ、ミュージック・ソウルチャイルドなど、ネオ・ソウル系のアーティストにもシンパシーを感じるとのこと。そのあたりの趣味はフリー・ソウル・リスナーと重なるものがあるというか、むしろ完全に一致している。
15. SOUL通信
ブルース・リー由来の“Don't think, feel!”と同じように、CKBでは“電波”も大切なキーワードのひとつ。ニュアンスとしては、同じID=感覚を共有している者だけが持つヴァイブレイション、というところか。CKB自体がそのような特別な“電波”で結ばれた仲間なのだろう。サウンドはゴスペル的な高揚感も感じさせる(コーラスの印象も大きい)、60年代から70年代にかけてのソウルのエッセンスが注入されており、アレサ・フランクリンやダニー・ハサウェイあたりとも共通性がある。
16. 箱根スカイライン
ここからの3曲はドライヴものが並ぶ。剣さんはクルマを運転しながらのときが、いちばんアイディアが湧いてくるのだそう。軽快なギターの刻みにグルーヴィーなベース、アクセントとなっているフルートなどが、スムースなハイウェイ・ドライヴィングのイメージにぴったりの、フリー・ソウル・ファンには希求力抜群のナンバー。CKBの歌詞世界は、横浜を中心に横須賀〜三浦〜鎌倉〜逗子〜葉山〜箱根など、神奈川県のさまざまな地名が登場し、その場所に行って聴くとあたかも自分が物語の主人公になったような感覚を与えてくれる。
17. 透明高速
この曲もボッサ風のギター・カッティングが無条件に心地よさを演出する、カンファタブルなクルージン・ナンバーだが、歌詞は真昼の本牧界隈でシヴォレーの幽霊を見たという、ちょっと背筋がヒヤリとするような内容。過去と現在、あるいは未来を行き来したり、現実と非現実が交錯したり。それは、剣さんがリスペクトしてやまない、日本を代表する女性シンガー・ソングライターであるユーミン(松任谷由実)の感覚にも通じるものがあるかもしれない。CKBは、2002年にリリースされたユーミンのトリビュート・アルバム『Queen's Fellows』で「COBALT HOUR」を取り上げている(非常に剣さんらしいセンスと言える)が、その曲も時間旅行がテーマになっていた。
18. ま、いいや
ディスク1のクロージング・ナンバーは、スタイリスティックス的なスウィート・ソウル・バラード。タイトルである「ま、いいや」は剣さんの口癖だそうだが、この曲で歌われる、未練を残しながらも感謝の思いを捧げ、“清濁併せ呑み”つつもそれでも割り切れないものを受け入れる感覚は、「ガールフレンド」と同じく人生を重ねた人間たちによって発せられるからこそ、より重みを増して聴く者に響く。そのような“人間力”は、CKBの音楽の本質のひとつなのではないだろうか。
FREE SOUL CRAZY Urban-Groove [DISC 2](waltzanova)
1. 男の滑走路
CKBファンなら、彼らのライヴでフランク・シナトラの「マイ・ウェイ」(もちろん日本語版)が定番のレパートリーであることはよくご存じだろうが、バリー・ホワイト×「マイ・ウェイ」という感じのゴージャスなビッグ・バンド・アレンジをバックに、気持ちよさそうに歌い上げられる俺節が爽快だ。「機内食は肉か魚か、迷うことなく肉を選んだ」など、パンチラインも満載で、CKB=横山剣の所信表明とも言えるナンバー。“マイ・スタンダード”という単語は、剣さんの2007年の自伝のタイトルにもなった。
2. レコード
別れた彼女をレア盤に例え、やるせない想いを吐露するミディアム・メロウな名曲。音楽好きにはなんとも身につまされる曲で、映画だったらジョン・キューザックがレコード店の店主を演じた『ハイ・フィデリティ』(2000年)を思い起こさせたりもする。冨田ラボがリミックスしたヴァージョンもあり(『Middle & Mellow Of Crazy Ken Band 2』収録)。剣さんは冨田ラボの最新作『Joyous』(2013年)に全面的に参加しており、両者は都会的で洗練されたメロウなサウンド(それはときにAOR的でもある)への志向、そして凝ったコード・ワークなど、実は共通項が多い。
3. 音楽力w/Full Of Harmony × ISO from I.S.O.P
『Free Soul Crazy Ken Band』の裏の主役はエレピ(エレクトリック・ピアノ)であることは、もうお気づきになっている方が多いのではないかと思われるが、CKBの曲にはエレピが重要な役割を担っているものが多く、その芳醇なメロウネスを演出するのに一役も二役も買っている。この曲もウーリッツァーの転がるような音色が絶品の音楽讃歌で、トラックは「タオル」を再構築して作られたもの。ケツメイシのファンなどにもアピールするポテンシャルを秘めているのではないだろうか。フィーチャーされているI.S.O.Pは横浜を中心として活動するラッパーで、菅原愛子の夫でもある。
4. 僕らの未来は遠い過去
前曲からたたみかけるように続く、これまたエレピがキーとなっているヴィンテージ・ソウル感に満ちた一曲で、フリー・ソウル度数も高い。ホーンのフレーズにバーバラ・アクリンの「Am I The Same Girl」が引用されているのがその秘密かもしれない。英国のモッドにも愛された「Am I The Same Girl」は、スウィング・アウト・シスターがカヴァーしたりピチカート・ファイヴがサンプリングしたりするなど、90年代の渋谷系界隈ではとりわけ(女子に)高い人気を誇っていた曲である。
5. ギラギラ
60年代のロンドンで活躍したジョージー・フェイムあたりに通じるモッド・テイストを持った、疾走感抜群のスカッとするナンバー。洞口信也の強力にドライヴするベース・ライン、ステディーなリズムをキープするドラム、ヒップなオルガンと聴きどころたっぷり。本牧〜山手〜元町周辺を小回りのきくスポーツカーで駆け抜けていく景色が浮かぶ歌詞とサウンドのマッチングも素晴らしい。夏が今まさに始まろうというときのワクワクする気分を、猥雑さも込みで全開にさせてくれるグルーヴィンな傑作。
6. パパ泣かないで
ニュー・ジャック・スウィング〜グラウンド・ビート的なリズム感が印象的な、90年代的な感触を持った一曲。歌詞も含め、ほのかなサウダージを感じさせるのがポイント。菅原愛子はこの曲が初のCKB作品参加だった(剣さんの奥さんが店長をしていた洋服店で、バイトしていた彼女を剣さんが“発見”したとか)。ライムスターとの共演が話題になった「肉体関係part2 逆フィーチャリング・クレイジーケンバンド」のサンプル元が収められたマンモス・シングル(!)『肉体関係』(2001年)に収録。
7. ボタンのかけ違い
ブラン・ニュー・ヘヴィーズやインコグニートなど、90年代初頭アシッド・ジャズの影響を感じさせるスピーディーなジャズ・ファンク・チューン。剣さんの特質として、同時代音楽に対するフレキシブルな感性が挙げられるが、先述のネオ・ソウルや本曲のアシッド・ジャズ、またヒップホップやイタリアン・ボッサなど、かなりの部分でフリー・ソウル〜サバービアとの共振性を持っている。
8. ランタン
ドラムの廣石“K-1”恵一のグルーヴ・マスターぶりが曲の背骨になっているボッサ・ナンバー。スネアの音色と途中で挿入されるブレイクビーツ的なフレーズが、なんともクセになる味わい。廣石は80年代の人気グループ、杉山清貴とオメガトライブのメンバーだった。筆者の最初に買ったレコードは、彼らの「ふたりの夏物語」だったので、そのことを知ったときにはミッシング・リンクが繋がったような不思議な気分になった(笑)。中華街のミステリアスなムードを象徴するタイトルの「ランタン」も、“レッド・ホット”的なスパイスが。
9. 秋になっちゃった
「タオル」の項で、アイズレーズはCKBの音楽性の基本言語のひとつと書いたが、この曲もそんなことを思わせるラテン・ソウル・タッチの一曲。名作「That Lady」でのアーニー・アイズレーを文字通り彷彿させる、小野瀬雅生のファズの効いたギター・プレイが堪能できる。小野瀬は楽理的な知識が豊富で、剣さんのデモテープを聴いてコード譜に起こすなど、CKBの音楽的頭脳とも言うべきメンバー。
10. El Diablo
“Diablo”とは、“悪魔”を意味するスペイン語で、ランボルギーニにも同名のクルマがある。この曲が発表された2004年当時、剣さんはチカーノ・ヒップホップにハマっていたようで、ラテン的なモティーフが顔を出すこともしばしばだった。メロディー展開やサウンド・プロダクションなどには、オリジナル・ラヴ=田島貴男の諸作と相通ずるものが感じられる。田島貴男と剣さんは雑誌「Barfout!」で2003年に対談を行い、TV番組でも共演して「接吻」を歌うなど、親近性を自他ともに感じていた模様。
11. Sweet Seoul Tripper
スペイシーな浮遊感が心地よいミドル・メロウ・チューンで、ループ感のあるサウンドにはシュギー・オーティスを連想させるところも。CKBにはループ感を持つトラックも多くあるが、90年代のR&Bやヒップホップを通過しているからこそのセンスだろう。韓国旅行から帰ってきた主人公が彼女の態度に違和感を覚える、という心理が歌われているが、「ゆっくり跳ねる音楽」には、本曲のアンサー・ソングとも取れる部分がある。
12. Summer Freeze
タイトルのアイディアはアイズレーズもカヴァーしている(GREAT 3も演ってますね)、シールズ&クロフツの名曲「Summer Breeze」からか。アイズレーズのヴァージョンは彼らの最高傑作のひとつとして名高い『3+3』(1973年)に収録されている。夏の終わりのやるせなさを感じさせるボッサ・ナンバーで、コーラスのせいか、どことなくノスタルジックな風情も。
13. 発光! 深夜族 Honmoku'69 tune
前曲からのボッサつながりだが、こちらは趣きを変えてクラブ仕様のナンバーに仕上げられている。オリジナルは、小西康陽のレーベルである524レコーズから2000年にリリースされた『ショック療法』に収録。ムッシュかまやつやその友人の福澤幸雄らが通っていた「キャンティ」など、60年代の麻布や六本木のナイトスポットに集まる深夜族に材を取ったスタイリッシュ・チューンで、剣さんが憧れていたという、洒落た大人の夜遊びの世界が活写されている。
14. お引っ越し
ボッサ・セクションのラストは、ある意味では本コンピレイション収録曲の中で、最も初期サバービア的と言えるかもしれないライト・タッチのボッサ。そのサウンド・プロダクションは、A&Mなどのソフト・ロック、ヨーロッパ〜アメリカ産のブラジリアン・ミュージックに通じるフィーリング。家具や荷物の運び出された後のガランとした部屋と主人公の心情が重ねあわされており、翳りのない明るさがより寂しさを感じさせるのは、日曜夜の「サザエさん」的な感覚と言えるだろうか。
15. SOULMATE
CKBグルーヴの魅力をたっぷりと味わえる、ファンク的なイディオムが前面に出たヴィンテージ・ソウル・ナンバー。リズム・セクションのコンビネイションを始めとして、剣さんが“サンプリング・ネタの宝庫”と呼ぶメンバーの高い演奏能力が楽しめる。人間愛をテーマとした歌詞は、CKBというバンドの“熱さ”を再確認できる内容。メンバーひとりひとりの濃厚な“人間力”こそがこのバンドの核であり、またそれが彼らの音楽が持つ説得力へと繋がっているのだと痛感させられる。メロウな中盤のセクションへの転調もお見事。
16. Brand New HONDA
フリースタイル的なラップ/歌も含め、メロウな中にもレゲエ〜ディスコ的なニュアンスとグルーヴが強く感じられる、リラクシンで抜けの良い一曲。この曲のリズムにも思わず腰が動いてしまう。目的地を決めずにドライヴしているときのイイ感じの適当さ、みたいなものがよく出ている。剣さんのクルマ好きはファンにはもはや説明不要、というところだろう。「ベレット1600GT−CKB仕様」を筆頭としてCKBの曲には数々のクルマが登場するが、この当時(2003年)ホンダ車がカッコいいと思っていたことが歌詞のトピックへとつながったそう。
17. 珈琲キャンディー
淡いセンティメントが印象的な、70年代的な懐かしさを感じさせるスウィート&メロウ・チューン。シュガー・ベイブなら「夏の終りに」「雨は手のひらにいっぱい」といった曲を思い起こさせる青春感をたたえている。彼らや、はっぴいえんど、フィフス・アヴェニュー・バンドなどが描き出したような、架空の存在でもあるような場所である“街=シティ”とそこに生きる若者の思いが伝わる素敵な作品だ。
18. 地球が一回転する間に
「男の滑走路」同様、めくるめくようにカラフルなオーケストレイションに乗って、生きる喜びが高らかに歌い上げられるラスト・ナンバー。タイトルは、トワ・エ・モア「地球は回るよ」やピチカート・ファイヴ「世界は1分間に45回転で廻っている」なども連想させる。剣さんが作曲家志望だったというのはファンには有名な話で、和田アキ子やTOKIO、直近では小泉今日子&中井貴一など、他アーティストへの提供曲も数多い。SMAPあたりが歌ったらハマるのではないだろうか、と思わせるポジティヴィティーに溢れた一曲で、『Free Soul Crazy Ken Band』は涙・涙、感動の大団円を迎える。
『Free Soul. the classic of The Stylistics』ライナー(橋本徹)
『Free Soul. the classic of The Stylistics』を作ることになるとは、正直なところFree Soul 20周年のアニヴァーサリー・イヤーとなる2014年を迎えるまでは想像していなかったが、スタイリスティックスは僕がハイティーンの頃、ソウル体験のごく初期に出会った思い出深いアーティストだ。
ソフト・ロックに夢中だった大学生になりたてのとき、僕は“黒いバカラック”という異名を知り、ソングライター/プロデューサーのトム・ベルが手がけた曲を片っ端から聴くようになった。幸いなことに、どのレコードも中古盤店で安く手に入れることができた。1970年代に日本でも絶大な人気を誇ったスタイリスティックスの名は、もちろんすでに知っていたが、デルフォニックスやフィラデルフィアに移ってからのスピナーズなどと共に、彼らのファーストとセカンドは、そんな流れの中で繰り返し聴いた名作だった。
その2年後の夏だっただろうか、僕はサンドラ・クロスのラヴァーズ・ロック名盤『Country Living』を好きになったことをきっかけに、スタイリスティックスの偉大さを改めて思い知ることになる。その後マッシヴ・アタックなどとの共演でも広く名を知られるようになるUKラヴァーズ〜ダブの天才プロデューサー、マッド・プロフェッサーが自ら主宰するアリワ・レーベルの作品群は、サンドラ・クロスを筆頭に、トム・ベルやバート・バカラックによるスタイリスティックスの名曲カヴァーが多いことに気づいたのだ。アリワの12インチやアルバムを買うたびに、そのレパートリーには歓喜の連続だったのを憶えている。他にもウィリアム・ディヴォーンや「雨に微笑みを」をカヴァーするなど、洗練されたソウル・ミュージック趣味の持ち主として、当時の僕が信頼を置いていたマッド・プロフェッサーが、スタイリスティックスを“お墨つき”の存在にしてくれたのだ。
とはいえ、あの頃の思い出によってのみ、この『Free Soul. the classic of The Stylistics』が選曲されているわけではない。もちろんマッド・プロフェッサーがクール&メロウなラヴァーズ・ロックに仕立てた曲や、バカラック作品やソフト・ロックの延長線上で聴けるソフト・サウンディング・ソウルの名作をたっぷり収録しているが、20年以上の時を経て、新たにスタイリスティックスのアーティスト像をアップデイトする試みの方こそを、むしろ重要視していると言っていい。マッドリブやJ・ディラを始めとする気鋭のビート・メイカーたちのサンプリング・ソース、そしてカヴァーによりよみがえる現代のヒップホップ〜R&Bのルーツ、という観点だ。
その象徴として、現在ビクターが発売権を有する音源ではないものの、ライセンスによって1曲目に収めることにこだわったのが、「Hurry Up This Way Again」だ。1980年作の同名アルバムのタイトル・チューンだが、まさにディアンジェロ以降という感じの濃密なメロウネスと密室的な感覚にフィットする、21世紀のベッドルーム・ソウル/ナイトクルージング・ソウルとして相応しい絶品クワイエット・ストーム。1996年から97年にかけて、Jay-Z〜トニ・トニ・トニ〜グルーヴ・セオリーが立て続けにサンプルしていたのを思いだす。
続く「People Make The World Go Round」は、個人的に最も大切な曲だ。我が最愛のジャズ・シンガー、ディー・ディー・ブリッジウォーターによる名演は言うに及ばず、90年代後半には、カール・クレイグのインナーゾーン・オーケストラでポール・ランドルフの内省的な歌声によってカヴァーされ、同じトーキング・ラウドのロニ・サイズもサンプリングしていたのが忘れられない。昨年はサンダーキャットがイントロのSEを使っていたのも記憶に新しい。マーヴィン・ゲイらのニュー・ソウルとも通じ合う、言わば“インナー・シティー・ブルース”。1990年前後にレア・グルーヴ〜アシッド・ジャズの影響でリロイ・ハトソンの虜になったとき、そのループするベース・ラインとグルーヴに、これはスタイリスティックスのあの曲と同じだ、と直感したのも、僕にとってはとても重要な“気づき”の経験だった。
全曲を順に解説していったら、どれだけ文字数が許されてもきりがないので控えるが、続いて収録しようと思っていた1978年の『In Fashion』からの「Smooth」を始め3曲が、当初はライセンス可能と思っていたが、リリース日に間に合うスケジュールでは使用許諾がかなわず、代わりに近年作の白眉とも言える3曲を、ボーナス・トラックとして最後に連ねたことを特筆しておこう。マイケル・ジャクソンやダニー・ハサウェイの人気曲カヴァーも入っているので、むしろこちらを聴けてよかった、という音楽ファンも多いかもしれない。
メロウからグルーヴィーへとグラデイションを描く、どんなヴァージョンも好きで「遠い天国」という邦題にも恍惚となるバカラック・ナンバー「You'll Never Get To Heaven (If You Break My Heart)」、ヤン富田〜いとうせいこう好きにも知られるマッド・プロフェッサーの「Fresh And Crean」と題したスティールパン・ヴァージョンも素晴らしすぎる「Country Living」、スカ〜ロック・ステディー版やマッドネスによるカヴァーもご機嫌なカリプソ曲「Shame And Scandal In The Family」と続くカリブ・フレイヴァーが心地よい展開も、僕はかなりのお気に入りだ。
「Betcha By Golly, Wow」「Stop, Look, Listen (To Your Heart)」「Break Up To Make Up」そしてマーヴィン・ゲイ&ダイアナ・ロスのカヴァーはもちろんメアリー・J.ブライジ「Everything」でもお馴染みとなった「You Are Everything」と代表作の並びが壮観なパートは、まさしくフィラデルフィア・スウィート・ソウルの真髄。美しいヴォーカル・ハーモニーに陶然とする、いわゆる甘茶ソウルとしても一級品だ。この『Free Soul. the classic of The Stylistics』にはもちろん、「You Make Me Feel Brand New」(誓い)や「Can't Give You Anything (But My Love)」(愛がすべて)といった日本での大ヒット曲もしっかり入っているので、往年のリスナーの方も安心して、彼らのベスト盤としてお楽しみください。
橋本徹 (SUBURBIA) ×MURO
Diggin’ Free Soul 発売記念スペシャル・インタヴュー
Pヴァイン:橋本さんとMUROさんのファースト・コンタクトについて教えてください。
橋本:マイクロフォン・ペイジャー「Two Night」ですね。「リマインド・ミー」×「インピーチ」、Free Soulじゃん、と思いました。実際に顔を合わせたのは、その後にDJパーティーで、だったと思います。
MURO:Organ barでお会いしたのが一番最初だったと思いますね。
Pヴァイン:Free SoulとDiggin'シリーズは、お二人がソウル・ミュージックをリスナーに再提示してきたムーヴメントを象徴する言葉ですが、橋本さんにとってFree Soulの定義を言うとすればどういったものになりますか。
橋本:自分の好きな音楽、趣味性や快感原則に素直に、どこまでも自由にソウル・ミュージック周辺を掘り下げていくことかな。
Pヴァイン:では、同じくMUROさんにとってDiggin’シリーズの定義とは?
MURO:グルーヴィーでメロウな生音、さらには音楽の奥深き追求ですね。
Pヴァイン:そして、その二つが重なる部分、または明らかに異なる部分はどういったものとお考えでしょうか。
橋本:重なる部分は、音楽的にはグルーヴィー&メロウ、メンタル的には反骨精神ということに尽きるんじゃないでしょうか。それと日常や生活の中で機能してくれる音楽、ということも。異なる部分はやはり、Diggin’にはBボーイ的なマインドやユーモアを感じますね。ジャケットの美意識なんかに違いが象徴的にあらわれてますよね。
MURO:うまく表現できていないかもしれませんが、にんにくが入っているかいないかというか……
Pヴァイン:コンピレイションFree SoulシリーズとミックステープDiggin'シリーズをお互いチェックしていたと思われますが、その時々で思ったことや想い出などを振り返っていただければ。
橋本:90年代に聴いた何枚かのDiggin’シリーズは、当時の僕でも眩しいくらい、ストレートな選曲の輝きが印象に残ってますね。僕の周りにも当然ファンがたくさんいました。面白いのは、若い男女のカップルで、男が女にFree Soulを教えて彼女が大ファンになり、やがて彼の方はMUROくん的なヒップホップ寄りの世界に惹かれていく、というケースが結構あったこと。何だか妙に納得できる、90 年代ぽいエピソードだと思います。身に覚えのある人、多いんじゃないかな。
MURO:お互いの作品に収録されたレコードの値段があがっていたので、いち早く収録されたレコードは買いにいきましたし、いち早く聴きたかったですね。
Pヴァイン:橋本さんがジャミロクワイの20周年記念盤のライナーノートで、MUROさんが当時「Virtual Insanity」をかけていたことに言及されていましたが、そういった、音楽を介しての接点や共鳴を感じたエピソードは他にもあったのでしょうか。
橋本:90年代後半にMUROくんは何度かFree SoulのDJパーティーでゲスト・プレイしてくれたことがあるんですが、いつもレコードをプレゼントしてくれるんですよね。生活の一部としてレコードが挨拶がわりのようになっているのが良いなあと思いました。それと誰もが認めるディガーでありながら、DJをしているとざっくばらんに、気になる曲はすぐに訊いてくるんですね。その率直さと腰の低さが、世界最高峰のディガーを形づくっていることはぜひ強調しておきたいです。
MURO:コンピレイションCDとしてのFree Soulシリーズのリリースから、実店舗のカフェ・アプレミディへと繋げられたのには感動しました。
Pヴァイン:Free SoulとDiggin'の初タッグが実現するというのは音楽ファンにとって大きな驚きと喜びとなりますが、お二人にとっての感慨もお聞かせ願えればと思います。
橋本:最初に企画を聞いたときは驚きましたが、やはり感慨深いですね。Diggin’シリーズは隣のクラスの遊び上手なイケてる連中、という感じだったから。誰よりも僕が聴くのを楽しみにしていたのかもしれません。
MURO:時が来た! まさにそんな感じです。
Pヴァイン:ではMUROさん、今回の選曲/ミックスについてご紹介いただけますでしょうか。
MURO:Pヴァインの音源を多めに選曲しながら、当時の自分の思い描いていたFree Soulを表現させていただきました。
Pヴァイン:このインタヴューを読んでいる方は、音楽の接し方においてお二人に大きな影響を受けているリスナーが多いと思われますが、そんな方々に対して伝えたいこれからの聴き方や、そして若い次世代に対するメッセージがあればお願い致します。
橋本:Free Soulの根本にも通じることですが、既成概念や制約にとらわれず、自分の感じ方に忠実に、どんよくに好きな音楽に接していってほしいですね。それが僕らの音楽をとりまく環境を豊かにしていくことにも繋がると思うので。
MURO:食わず嫌いをせずに、何でも聴いてほしいですね。ひとつでも多くの楽しみができてくれることを願います。
Toru II Toru通信(2014年6月21日)
橋本徹が選ぶ2014年上半期ベスト15枚
Selection & Text by Toru Hashimoto (SUBURBIA)
(1)Taylor McFerrin『Early Riser』
(2)Kris Bowers『Heroes+Misfits』
(3)Diggs Duke『Offering For Anxious』
(4)The Ryan Driver Quintet『Plays The Stephen Parkinson Songbook』
(5)S.Carey『Range Of Light』
(6)Moodymann『Moodymann』
(7)Lone『Reality Testing』
(8)Skymark『Primeiras Impressoes』
(9)Teebs『E s t a r a』
(10)Anthony Valadez『In Search Of...』
(11)Beck『Morning Phase』
(12)William Fitzsimmons『Lions』
(13)Joe Henry『Invisible Hour』
(14)Meshell Ndegeocello『Comet, Come To Me』
(15)Fatima『Yellow Memories』
●テイラー・マクファーリン/クリス・バワーズ/ディグズ・デューク/ライアン・ドライヴァー・クインテットと共に、2014年上半期に実はいちばん聴いたのは、2013年暮れにリリースされた7 Days Of Funkだった。まさしく“ブギー・ナイツ”な一枚。7インチ8枚入りのボックスも買ってしまった。
●コンピ『Folky-Mellow FM 76.4』には、ここに挙げた2014年のフェイヴァリットを数多く選んだが、ダウンロード販売のEPのみだった素晴らしいフォーキー・メロウ・ソウルマン、ジェイムス・ティルマンを収録することができたのは、とりわけ嬉しかった。
●我が青春の名盤『North Marine Drive』以来31年ぶりとなるソロ作『Hendra』を発表したベン・ワットは特別賞、やはり深い感慨を抱かずにはいられなかった。
●曲単位では、言うまでもなくマイケル・ジャクソン「Love Never Felt So Good」、どのヴァージョンも好きだったし、見事に時代の空気をとらえていると思った。デヴィッド・ゴードン・トリオ「Como Sao Lindos Os Youguis (Waltz For Bebel)」(ジョアン・ジルベルト)/ノーマ・ウィンストン「Time Of No Reply」(ニック・ドレイク)/トレイシー・ソーン「Night Is My Friend」(モリー・ドレイク)/Monika Borzym「In The Name Of Love」(ケニー・ランキン)/マゴス&リモン「Afro Blue」(アビー・リンカーン)/ブラクサウンド「Unlovable」(スミス)/ブライアン・オーウェンス「What’s Going On」(マーヴィン・ゲイ)といった好カヴァーも印象に残っている。
●近年作の日本盤リリースでは何と言っても、“アフロ・ブラジリアンのニック・ドレイク”ことチガナ・サンタナの『The Invention Of Colour』に尽きる。リイシュー企画ではNumeroからのネッド・ドヒニー『Separate Oceans』を思いのほか愛聴した。