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5月30日──橋本徹のコンピ&カフェ・アプレミディ情報

この春にリリースされた5枚のFree Soulコンピレイションは、もう聴いていただけましたでしょうか。僕にとってはどれも自信作ですが、とりわけ『Ultimate Free Soul Collection』は絶好調と聞いて、レコード会社の営業ミーティングの声には耳を貸すべきものだな、と思ったりしています。
そんな勢いに乗ってか、秋には、55周年を迎えるモータウンのレーベル・コンピを同じコンセプト/フォーマットの3枚組で、という話もいただき、嬉しい限りです。我が愛するスモーキー・ロビンソンのベスト・セレクション『Free Soul. the classic of Smokey Robinson』も、併せて作ることになりましたので、楽しみにしていてください。
“Free Soul Collection 1000”と題された¥1,000リイシュー盤50作も5/21にリリースされ、予想以上の反響の大きさに驚いています。6/18リリース分も含む100枚のディスクガイドを掲載したカラー12ページのフライヤーも編集・執筆しましたので、ぜひご覧いただければ幸いです。モータウン以外にも、今年はレーベル・コンピのオファーが多く、ブランズウィック/ホット・ワックス&インヴィクタス/ハイ/タブー/サルソウル/ウエスト・エンド/Adventure Music/origami PRODUCTIONSなどを、ひとつひとつ丁寧に選曲していきたいと考えています。夏までのリリース・スケジュールを、収録希望曲のライセンスの都合などで発売日が変更になったものも含めて、このブログの最後に一覧できるようにしておきますので、お役立てください。

この春は、Free Soul 20周年に伴いメディア稼働もいつもより多めなので、Free Soulの本質的なことをわかりやすくまとめてくれた「ダカーポ」を始め、雑誌/ウェブサイトからTV/ラジオまで幅広くチェックしてもらえたら、ありがたいです。NONA REEVESの西寺郷太が唱えている、“全世界同時多発「Free Soul」化現象”については、僕も最近ふと考えることがあります。単に音楽的な傾向の一致という意味からだけでなく、例えばマイケル・ジャクソンの「Love Never Felt So Good」のオリジナル・ヴァージョンとコンテンポライズ・ヴァージョンは、“Free Soul”と“2010s Urban”の関係にあるのですね。僕はもちろん、どちらも好きです。“2010s Urban”は、コンパイルすることによって“Free Soul”をリエディット/コンテンポライズしているのかもしれません。
そんな機を逃さず、なのかはわかりませんが、もうひとつ嬉しいニュースが跳びこんできました。USENで遂に、Free Soul専門チャンネルがスタートするのです。不意のオファーに驚いたのも束の間、放送開始は7/1。さっそく初期設定となるベーシック・セレクション3,000曲の選定を始めています。チャンネル名は「usen for Free Soul」(C-61)、USEN社内の営業面での期待も大きいので、ここは気合いを入れないわけにはいきません。高い人気を保ち続けている「usen for Cafe Apres-midi」(D-03)に対して、言ってみればコンピレイションCDとは逆に、Free Soulが勝負を挑むことになります。切磋琢磨、ですね。

そして今週は、6/15リリースとなったアプレミディ・レコーズの新作コンピ『Folky-Mellow FM 76.4』のすべての制作を終えました。詳しい内容については、UNITED ARROWSウェブサイト連載コラム「音楽のある風景」に書いたばかりなので、そちらを読んでいただければと思いますが、マスタリング後の音源を聴いていて感じたのは、これは選曲やアート・ディレクションをすることによって編み上げた、僕にとっての『North Marine Drive』(ベン・ワット)なんだな、ということでした。ニック・ドレイクの大好きな「Northern Sky」の歌詞から引用したサブタイトル、黄金色に染まる夕暮れのジャケットも、とても気に入っています。ディグズ・デュークやジェイムス・ティルマン、S.キャリーからライアン・ドライヴァー・クインテットまで、正真正銘の僕の2014年上半期ベスト・ソングが並んでいます。そう、ある意味では、前後してのアプレミディ・レコーズからのリリース、チガナ・サンタナ『The Invention Of Colour』〜ライアン・ドライヴァー・クインテット『Plays The Stephen Parkinson Songbook』(6/22発売)と連なる“ロマンティック・モノローグ”三部作の中核、と言えるかもしれません。この後に、草野圓によるライナーも転載しておきますので、ぜひお読みください。

さらに近況をお伝えするなら、最近は7月リリースの『Free Soul Crazy Ken Band』『Free Soul Windy-City ~ Brunswick Treasure』『Free Soul Motor-City ~ Hot Wax & Invictus Treasure』のマスタリング〜ライナー執筆〜アートワーク入稿の日々です。『Free Soul Crazy Ken Band』は全36曲、“Crazy Urban-Mellow”と“Crazy Urban-Groove”の2枚組。正直、休みの日はこればかり聴いてしまっているくらい、「OYA-Gになってから選曲できて良かったなあ」としみじみ感慨深くなってしまうほど、身につまされるナイス・ミドル・メロウな名曲のオン・パレード。100%満足のセレクトが実現できて、掛け値なしに、夏が待ち遠しくなる最高のCDになりました。大人であることの楽しさと切なさ、甘さと苦さが160分にわたり詰まっています。キリンジの後に手がけることができたのも、何となくいい流れですね(割と優等生なんだけど、酸いも甘いも知る遊び慣れた大人の男にも一目置かれているようで)。
一方、“Windy-City”はシカゴ・ソウル、“Motor-City”はデトロイト・ソウルの、まさに決定版コンピレイションで、誰もが愛してやまない人気クラシックスから、知る人ぞ知るシングル・オンリー曲までを、この上なく贅を尽くして収めています。モータウンと比べても全く遜色ない、輝ける“ザ・サウンド・オブ・ヤング・アメリカ”。こちらについては、あまりにも思い入れがありすぎて、いくら字数があっても足りないなあ、という感じですので、また機会を改めて、たっぷりと推薦させていただきましょう。

最後に、4月にリニューアル・オープンした新生カフェ・アプレミディにご来店くださっている皆さん、本当にありがとうございます。6月からは、木曜日と金曜日の夜に、僕の信頼する音楽好きに通常営業の中でDJをやってもらおう、というプランも進行します。不定期に開いているDJパーティーも含め、少しでも音楽好きの皆さんに集まってもらえる楽しい場にできるよう、努力を重ねていきますので、これからもよろしくお願いします!

追記:
4〜5月は気候も心地よく、海や山に出かけるなど、野外ですごすことも多かったのですが、印象的なライヴもいくつか観ることができたので、備忘録を兼ねて、ここに記しておきます。
クリス・バワーズ『Heroes+Misfits』と並んで、今のところ『Early Riser』が2014年のマイ・ベスト・アルバム候補になっているテイラー・マクファーリンが、ドラマーのマーク・ジュリアナとセッションした「BRAINFEEDER4」のステージ。ブルーノート東京で聴いた我が最愛のジャズ・シンガー、念願だったディー・ディー・ブリッジウォーター。BVLGARI銀座タワーの「La Terrazza Dom Perignon Lounge」というシチュエイションにも惹かれた“ジョー・バルビエリ・シングス・チェット・ベイカー”。
今はやはり、『North Marine Drive』以来31年ぶりのソロ作『Hendra』(僕はこの春、「Spring」を再生の歌として繰り返し聴きました)を発表したベン・ワットの来日が、待ち遠しくてなりませんね。最近のインタヴューでの、「俺が興味あるのは、違いじゃなくて、類似点なんだ」という彼の言葉にも、とても共感しました。ポジティヴかつフラットな音楽への接し方という点でも、僕は31年間、彼にシンパシーを抱き続けています。


『Folky-Mellow FM 76.4』ライナー(草野圓)

橋本徹・選曲による架空のFMステイションをテーマにしたコンピレイション・シリーズ、5作目のテーマはやや趣を変えて“フォーキー・メロウ”です。シンガー・ソングライターのモノローグ的な感触を多く持つ、傍らにいて心模様を彩ってくれるような本作の曲たちを聴いていると、頭の中にはロード・ムーヴィー的なイメージが浮かんできたのでした──。

僕が仕事を辞めてから、もう1年近くの時間が経つ。別に特別なことがあったわけではない。10年以上にわたってずっとひとつの仕事を続けてきて、自分が生温かな慣れと軽いあきらめにも似た気持ちに浸っていることに、あるとき気づいた。おそらくそれは、誰のせいでもないのだろう。ウェイ・トゥ・ブルー。僕は徐々に仕事に対する熱のようなものを失っていき、周囲もまたそうであるように僕には思えた。必要以上に同僚や友人と接することをしなくなり、彼らも声をかけてくることはなかった。そしてある晴れた春の日に、僕は仕事を辞めた。

やりたいことといっても特に思いつかなかったので、僕は旅に出ることにした。若い頃の僕を通過したいくつかの映画や小説。そこで描かれていたような景色があるのなら、それを見たいと思ったのだ。印象に残っている光景がいくつかある。ひとつは、イングランドの海のことだ。ロンドンを巡ってから訪れた、ある友人宅で見ていたアルバムの中に、僕の故郷に似た雰囲気を持つ風景が写っている一枚を見つけた。北の海に面した小さな漁師町で生まれ育った僕は、子供の頃、自転車で海辺まで行くのが好きだった。遠い渚。そのことが少し頭をよぎったのかもしれない。友人から車を借り、僕は海岸沿いをドライヴした。季節は冬が近づいていて、見渡す限り鈍色の海と空が広がっていた。しばらく車を走らせたあと、僕は突堤のような場所を見つけると、車を停めて外に出た。カーステレオからは地元のステイションFMが流れていたが、パーソナリティーが「エヴァーグリーンを一曲お届けします」と言った。僕が十代だった頃に、すり切れるほど聴き込んでいたレコードの曲だった。アコースティック・ギターの爪弾きとセンシティヴィティーを滲ませるヴォーカルが描きだす、せつなく儚い世界。その曲はいつでも僕の気持ちに寄り添ってくれ、今でもそれは変わらなかった。僕は、自然と自分が失ったものについて想いを馳せた。不思議と哀しくはなかった。僕はただ、冷たい風に吹かれながらその調べを聴いていた。

もうひとつは、ストックホルムからナルヴィクへと向かう夜行列車での出来事だ。もう乗客たちは寝静まっているらしく、僕も部屋の照明を低く落とし、トリコロール・カラーのベッドに横になっていた。木枠のついたあまり大きくない窓から、外の風景にときおり目をやった。針葉樹林のシルエットと夕暮れのような空の色が、幻想的な風景を作りだしている。時期が時期だったら、オーロラを見ることもできたかもしれない。僕はベッドサイドから、小さな音で流れている音楽に耳を澄ませた。朴訥とした語り口のヴォーカルとピアノ、それと対話するかのようなアルト・サクソフォン、ときおり絡むエッジーなエレキ・ギターが、過ぎ去った日のノスタルジアを静かに呼び起こす。鳥がさえずる淡い春の夢の中にいるような安らかな気分で、僕は静かに目を閉じた。気がつくと、森の中で風のそよぎを感じながら、僕は北の空を眺めていた。空気は澄み渡っていて、遠くにかすかに見える海は光を反射している。浅い眠りから目覚めた後も、それが夢なのかどうか実感が持てなかった。その手触りはあまりにもリアルだったし、夭折した伝説的なフォーク・シンガーの歌う、大好きな曲のフレーズが頭から離れなかったからだ。

I never felt magic crazy as this
I never saw moons knew the meaning of the sea...

そして僕は、カリフォルニアのビーチにある桟橋を歩いていた。ちょうど夕暮れの時間帯を迎えようとしており、あたりは黄金がかったオレンジ色に染め上げられている。行き交う人たちは優しげな面差しで、ゆっくりと歩を進めている。沈みゆく太陽の最後の陽射しが、サングラス越しに僕の目に飛び込んできた。この風景もまた、心の一葉に加えられることを予感しつつ、僕は胸の中からつぶやきのような旋律が流れだすのを感じていた。


Free Soul 20周年記念リリース一覧(5/30現在)

『Free Soul meets P-VINE』(Pヴァイン)11/20
『Free Soul ~ 2010s Urban-Mellow』(Pヴァイン)12/20
『Urban-Mellow FM 77.4』(インパートメント)2/6
『Free Soul. the classic of Terry Callier』(ユニバーサル)3/12
『Free Soul ~ 2010s Urban-Mellow Supreme』(ユニバーサル)3/19
『フリー・ソウル・キリンジ』(2枚組/コロムビア)4/2
『Free Soul ~ 2010s Urban-Groove』(Pヴァイン)4/16
『Ultimate Free Soul Collection』(3枚組/ユニバーサル)4/23
Tigana Santana『The Invention Of Colour』(インパートメント)4/27
〈Free Soul〉 オリジナル・アルバム・リイシュー50枚(ユニバーサル)5/21
『Folky-Mellow FM 76.4』(インパートメント)6/15
〈Free Soul〉 オリジナル・アルバム・リイシュー50枚(ユニバーサル)6/18
The Ryan Driver Quintet『Plays The Stephen Parkinson Songbook』(インパートメント)6/22
『Free Soul Windy-City ~ Brunswick Treasure』(ULTRA-VYBE)7/9
『Free Soul Motor-City ~ Hot Wax & Invictus Treasure』(ULTRA-VYBE)7/9
『Free Soul Crazy Ken Band』(2枚組/ユニバーサル)7/16
『Free Soul. the classic of The Stylistics』(ビクター)7/23
『Free Soul ~ 2010s Urban-Sweet』(ビクター)7/23
『Urban-Saudade FM 75.4』(インパートメント)8/3
『Free Soul. the treasure of Hi』(ULTRA-VYBE)8/6
『Free Soul. the treasure of Al Green』(ULTRA-VYBE)8/6
『Free Soul Adventure Music』(Adventure Music/NY)8/20
『Free Soul origami PRODUCTIONS』(origami PRODUCTIONS)8/20
『Free Soul. the classic of Sade』(ソニー)発売日未定
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