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4月21日──橋本徹のコンピ情報&「Toru II Toru」通信
僕の新しいコンピレイション『Twilight FM 79.4』がアプレミディに入荷しました。全国リリースは4/25ですが、ぜひ多くの方に聴いていただければと思います。全曲解説など詳しい紹介はHMVウェブサイトに掲載されますが、ここではそのCDライナーと、一昨日の選曲会「Toru II Toru」で配布されたフリーペーパーへの寄稿をどうぞ。


『Twilight FM 79.4』ライナー(草野圓)

昨年の夏にリリースされた『Seaside FM 80.4』、その姉妹編となるのがこの『Twilight FM 79.4』です。前作は海へのドライヴ、というイメージがありましたが、今回はほのかな内省感を感じさせるメロウ・チューンやフォーキー・ソウルなど、ちょっとビターなテイストを感じさせたりもするセレクションになっています(もちろん、心ときめくようなサロン・ジャズによる名曲カヴァーも入っていますよ!)。僕が今回このコンピレイションを聴きながら想像したのは、例えばこんなストーリーだったりします──。 

パーキング・スペースに停めた車に向かって、カフェラテの紙カップを片手にSAを小走りで渡る。ステンカラーのコートのままシートに腰を下ろし、交通情報を確認するためにFMのスウィッチを入れた。ここから都心にかけては、やはり渋滞しているようだ。やれやれ、という気分だったが、金曜の夕方という時間帯を考えれば、まぁ仕方がないか……。そんな僕の耳に入ってきたのは、簡素なピアノと落ち着いた雰囲気の女性ヴォーカル。曲はスティーリー・ダンの「Gaucho」だ。どこか懐かしさを感じさせるその歌声を聴いていると、学生時代や就職してしばらくの時期のことが、スライドショーのように頭の中に思い浮かんでくる。そして自然と当時付き合っていた女の子のことも。『Gaucho』やドナルド・フェイゲンのアルバムは、彼女とのドライヴでよく聴いていた。それも、彼女を家に送り届けてから一人の車の中で、というシチュエイションが多かった。彼女と過ごした一日の余韻を楽しむように、僕はこの曲のまろやかなメロディーを味わいながら、いつもちょっと遠回りをして帰ったものだった。その後、彼女とは、ちょっとしたことが原因で別れてしまった。ボタンの掛け違い。お互いに大切なものの優先順位が違っていたのだろうか。彼女は数年後に結婚し、今は北欧のとある街に住んでいて、ホリデイ・シーズンにはポストカードが送られてくる。 

川を渡る車窓から見える空が、オレンジ色に染まってきた。トワイライト・ハイウェイ。こんな時間帯にピッタリなんだよ、と得意げに言ってプレゼントしたネオ・アコースティックの12インチを、彼女は今も持っているのだろうか、ふとそんなことを思う。FMからはカーティス・メイフィールドの曲、という紹介に続けて「Move On Up」がかかった。ぐっとテンポを抑えた、スピリチュアルなテイストも感じさせる女性ヴォーカル。思えば、あの頃の僕は全力疾走することに夢中で、周囲のことなんて見えていなかったのかもしれない。夕暮れどきの空の色がオレンジから紫がかった藍へと移り変わっていくのを、僕はぼんやり眺めた。 

辺りが暗くなり始めると、自然と目立つようになる街の明かり。灯ともし頃のトーキョー・シティ・セレナーデ。このひとつひとつの灯りの数だけ、それぞれの暮らしがある。渋滞はまだ続いていたけれど、僕は少し優しい気分になってステアリングを握った。昔の僕は自分だけは特別でありたいと思っていたし、そのことに対して疑いも持たなかった。けれど、今は自分が都会に生きる平凡な一人の人間であることを嬉しく思う。そんなことを言ったら彼女は笑うだろうか。僕は今の独りの時間に親密ささえ感じながら、音楽に耳を傾けていた。 

そして街が近づく頃、流れてきたのは、ホイッスルとサンバのリズムに続く「Tristeza」のあのメロディー。悲しみの中にある希望。軽くハミングをしながら、僕は今夜、これから向かうパーティーについて思いを馳せた。気のおけない仲間とのささやかな集まり。シャンパンの泡のように自然と笑顔がこぼれる気持ち。きっと今宵も楽しいひとときになるだろう。目の前に連なるテールライトの灯りが、僕を素敵な場所へと導いてくれるように思った。 


「Toru II Toru」通信 

色彩を持たないジェイムス・ブレイクと、彼の巡礼の年。あるいはアーバン2013。 
Selection & Text by Toru Hashimoto (SUBURBIA) 
(1)Rhye「Open」 
(2)James Brake「Overgrown」 
(3)J.R Alexander「Walking Over Me」 
(4)Inc.「The Place」 
(5)Bonobo feat. Erykah Badu「Heaven For The Sinner」 
(6)Louis Cole「Your Moon」 
(7)Patricia Marx「Melody Of Love」 
(8)Rhye「The Fall」 
(9)Bonobo feat. Cornelia「Pieces」 
(10)Lapalux feat. Astrid Williamson「Dance」 
(11)J.R Alexander「Goodbye」 
(12)Inc.「5 Days」 
(13)Louis Cole「Grains Of Sand」 
(14)Bilal「Never Be The Same」 
(15)Lady「Sweet Lady」 
(16)Jesse Boykins III「Amorous」 
(17)Laura Mvula「Something Out Of The Blue」 
(18)Turn On The Sunlight「In The Dawn (For Rei Harakami)」 
(19)The Rosebuds「No Ordinary Love」 
(20)James Brake「Our Love Comes Back」 
(21)Vondelpark「Closer」 

最近リリースされた作品からマイ・フェイヴァリットを集めた。「孤独だけど、とくに淋しくはない」(『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』)、都市生活者の夜をメランコリックに彩る音楽。それは微熱と解脱のソウル・ミュージックでもある。 
官能的なのに優雅、滑らかさや静けさ、哀しみや憂うつさえもメロウに昇華するセンス。アンビエントR&Bとエレクトロニカ、LAビートとUKベースの間でダビー&メランコリーに揺らめく、体温低めのエレガントなグルーヴ。生音とエレクトロニクスを洒落た手つきでクールに操るが、美しい歌声やヴォイス・サンプルは翳りや内省感を宿している。そして、どこか幽体離脱しているような感覚。 
センシュアル、そうケイト・ブッシュのアルバム・タイトルに倣うなら“The Sensual World”。僕はシャーデー〜マックスウェル〜マッシヴ・アタックという90年代の三角形を思い浮かべる。シルキー&スキニーなベッドルーム・ソウルであり、インナー・シティー・ブルース。ディープ&アトモスフェリックなアーバン・ミュージック(ラリー・ハードとプリファブ・スプラウトが結ぶストライク・ゾーンを思い浮かべてほしい)。ライのセレクトした『FADER Mix』を聴いた夜、ピーター・ゲイブリエル&ケイト・ブッシュ「Don't Give Up」はシャーデー『Love Deluxe』のプロトタイプだと気づいた。“Midnight Love”のサウンドトラックという趣きのそのミックスには、マーヴィンやカーティス、シルヴィアやアル・グリーンと並んで、ルイス・テイラーも収められていた。ライも、インクも、ボノボも、ラパラックスも、限定300枚EPのJ.R・アレクサンダーも、ヴィジュアル・ワークにまで深い美意識が貫かれた彼らを、僕は90sルネッサンスの変奏、温故知新の主客と捉えている。それらがジェイムス・ブレイクのセカンド・アルバムと時を同じくして届いたのは、決して偶然ではないだろう。 
実はここに1曲だけ、新作に交えて、こうした流れの起点のひとつのように感じられるジェシ・ボイキンス3世の2009年作を選んだ。彼が主宰・提唱しているのは“The Romantic Movement”(そこに所属するクリス・ターナーはシャーデー「Kiss Of Life」をカヴァーし、エミリー・キングはライ『FADER Mix』にも収録されている)。そのロマンティシズムを踏まえながら、灯りを落として、あるいは夜更けのドライヴで、このセレクションを聴いてみてほしい。アーバン2013、ディス・イヤーズ・モデルはこれだと、静かな恍惚が訪れるはずだ。 

Toru II Toru FM 4.19 
Selection & Text by Toru Hashimoto (SUBURBIA) 
(1)Maxwell「This Woman's Work」 
(2)Peter Gabriel feat. Ane Brun「Don't Give Up」 
(3)Manuel Bienvenu「North Marine Drive」 
(4)Poolside「Harvest Moon」 
(5)Patricia Marx feat. Seu Jorge「Espelhos D'Agua」 
(6)Francois Morin「Naissance」 
(7)Tomoki Kanda「Everybody Wants To Rule The World」 
(8)Fernanda Guedes「Odara」 
(9)Andy Allo「Yellow Gold」 
(10)Francesca Ancarola「Lo Que Mas Me Gusta」 
(11)Devendra Banhart「Daniel」 
(12)Laurent Voulzy「Oh Lori」 
(13)Halie Loren「Waiting In Vain」 
(14)Michael Gately「I Don't Know If I Should Love You (Lynn's Song)」 
(15)Julie Doiron「Tonight Is No Night」 
(16)Gerald Clayton feat. Gretchen Parlato & Sachal Vasandani「When An Angel Shades A Feather」 
(17)Molly Drake「I Remember」 
(18)Milder PS (Joakim Milder)「Nightingales」 
(19)Madeleine Peyroux「Bird On The Wire」 

コンピ『Twilight FM 79.4』の兄弟編のつもりで、夕闇せまる頃から真夜中までの時間の流れを描くようにセレクトした。当初はラパラックス「IAMSYS (Tape Intro)」をオープニング・トラックに選曲を始めたこともあり(最終的にタイム・オーヴァーのため選外としたが)、“Nostalchic”──ノスタルジー+シックなテイストが通奏低音として流れているかもしれない。結果的には、ケイト・ブッシュに因んだ2曲からの“センシュアル”なスタートになった。新譜・復刻それぞれのニュー・アライヴァルをフィーチャーしながら、静謐な後半は特に、渡辺亨さんの好みにも接近できたのではないかと思う。 


読書メモ:いつもの村上春樹をいつものように読んだ。正しい言葉はいつもなぜか後からやってくる。主人公が天職に就いているのは「国境の南、太陽の西」以来か。リスト「ル・マル・デュ・ペイ」の魅力を伝える文章も素晴らしい。音楽評論家は見習うべき。
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