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2月16日──橋本徹の「Toru II Toru」通信etc.
ブログの更新が滞ってしまい恐縮です。遅ればせながら、2013年もよろしくお願いします。
昨夜は今年最初の渡辺亨さんとの「Toru II Toru」でした。僕がホセ・ジェイムス&エミリー・キングのライヴを観終えて駆けつけたときには、すでに盛況でいい雰囲気になっていたので、まずドナルド・バード追悼を、と思っていたDJは、久しぶりにフリー・ソウル・ファン涙のメロウ・グルーヴ「You And Music」をかけ、最近のお気に入りデクスター・ストーリー「Underway (Love Is...)」につないでスタートしました。プリンス「Breakfast Can Wait」やダークスター「A Day's Pay For A Day's Work」への好反応も嬉しかったですね。
このアプレミディ・ホームページに掲載する「Toru II Toru」フリーペーパーへの寄稿を見てもらえればわかるように、昨夜は大きくふたつのテーマを決めてプレイできたのも楽しかったです。来場者の方に追体験していただき、より好奇心を広げてもらうきっかけになれば、という思いで作った2枚のプレゼントCD-Rも好評で何よりでした(フリペの原稿は、そのライナー代わりに書いたものです)。
今はその制作過程でリストアップしながら、惜しくも選にもれた音源を集めたCD-Rを聴きながらペンを進めていて、穏やかな午後の陽射しの中、アル・グリーンの「Simply Beautiful」が流れています。僕はホセ・ジェイムスが今回の来日ツアーでこの曲をカヴァーしたことに、得も言われぬシンクロニシティーと静かな興奮を覚えました(祝・大ヒットの彼の『No Beginning No End』に僕が濃厚に感じとったのは、自ら公言するマーヴィン・ゲイ〜レオン・ウェアやディアンジェロに加え、スライやビル・ウィザース、そしてアル・グリーンの影だったのですが、実際ライヴの「Trouble」後半で「Love And Happiness」もリフレインしていました)。世界はつながっている、しかも(音楽的には)少しずついい流れになっている、この後に掲げるふたつの文章では、そんな小さな希望の芽吹きを伝えられたらと思います。ジェシ・ボイキンス3世が提唱する“ロマンティック・ムーヴメント”という言葉が脳裏をかすめます。
考えてみれば、個人的にはやはり、ジェイムス・ブレイクの登場がひとつのエポックになったのでしょう。昨晩最後にかけたのは、彼の新曲「Retrograde」。例によってワインを飲みすぎてしまい、マッドリブ“Medicine Show”へ流れられなかったのは残念でしたが、素晴らしい音楽の余韻は、一夜明けてもまだ、僕の中に“震え”として残っています。


ロバート・グラスパー〜ホセ・ジェイムスと同時代に息づくソウル・ミュージック
Selection & Text by Toru Hashimoto (SUBURBIA)

(1)Prince「Breakfast Can Wait」
(2)Bilal「West Side Girl」
(3)Dexter Story「Underway (Love Is...)」
(4)Chris Turner feat. MoRuf「Let Go」
(5)Daley「Game Over」
(6)Chris Turner「Kiss Of Life」
(7)The Decoders feat. Sy Smith「Inside My Love」
(8)Abiah「Next Time Around」
(9)The Decoders feat. Kevin Sandbloom「That's The Way Of The World」
(10)The Decoders「I Am The Black Gold Of The Sun」
(11)Laurin Talese feat. Robert Glasper「Winter」
(12)Abiah「Doves」
(13)Dani Elliott「Trouble」
(14)Hiatus Kaiyote「Nakamarra」
(15)Jesse Boykins III「Mystery Of Inquity (LaurinHillBadu Refix)」
(16)Kendrick Scott Oracle feat. Alan Hampton「Serenity」
(17)James Blake「Retrograde」
(18)Darkstar「A Day's Pay For A Day's Work」
(19)Gregory Porter「Be Good (The Lion's Song)」

ロバート・グラスパー・エクスペリメント〜ホセ・ジェイムス、ここ数年来ブルーノートのA&Rイーライ・ウルフが手塩にかけてきたリベラルなブラック・ミュージックが、名実ともに花を開き、豊かな結実を見せている昨今。世界各地から届けられる新譜を聴いていても、ソウル・ミュージック、というのが最近のひとつのキーワードになっているように思える。そこで今回の「Toru II Toru」では、そんな時代に息づくソウルの息吹、に注目して僕の好きな曲をセレクトしてみた。
近年のソウルマンの多くは、スティーヴィー・ワンダーを音楽的な父としていることが強く伝わってきたが、このところプリンスを兄のように慕うブラック・ミュージックが台頭してきている、と感じるのは僕だけだろうか。そんな気運と息を合わせるように登場した、プリンスの新曲(1)が素晴らしい。控えめな「Starfish And Coffee」という趣き(今の僕には最高の誉め言葉だ)が何ともよい。
J・ディラ(ソウルクエリアンズ)からロバート・グラスパーまで、コラボレイション歴を見ても21世紀ネオ・ソウルを代表する男性シンガーと言えるだろうビラルの(2)は、来たるべきニュー・アルバム『A Love Surreal』からの先行シングル。紛れもなくプリンス・マナー(そしてスライも)を受け継いでいるが、僕がリズム・トラックの第一印象からまず連想したのは、セオ・パリッシュもプレイするシュギー・オーティス「XL-30」だった。
カルロス・ニーニョのプロデュースによる(3)は、ビルド・アン・アークとターン・オン・ザ・サンライトの間を行くような美しくスピリチュアルなソウル・ミュージックが詰まったデクスター・ストーリー『Seasons』のリード・ナンバー。この冬のへヴィー・ローテイションLPになっている。
(4)(6)のクリス・ターナーは、ビラルとも共演していて、ジャズ・ユニットErimajでもスティーヴィー・ワンダーの好カヴァーを聴かせるが、素晴らしい既発音源が『Lovelife Is A Challenge』という形にまとめられた。メロウ&ピースフルでMoRufとのコンビネイションも抜群な(4)や、シャーデー名曲のアコースティック・ソウル好演(6)だけでなく、マーヴィン・ゲイを彷彿させる絶品の出世作「Liquid Love」、カーティス・メイフィールド「Give Me Your Love」使いのピート・ロック制作曲「Sticky Green」、スティーヴィー『Music Of My Mind』からの「Seems So Long」など、聴き逃せない。
(5)はプリンスの影響を強く感じさせる英国ブルー・アイド・ソウルマン(BBC「Sounds Of 2011」にも選ばれていた)のデビューEPに収録されていた隠れ名作。朝までDJすることがあるなら、最後にプレイしてダンスフロアを笑顔にしたい、初期プリンスで言えば「My Love Is Forever」のような存在だ。
プラグ・リサーチやブレインフィーダー周辺のLAのミュージシャンたちによるカヴァー・プロジェクトの(7)(9)(10)は、チャールズ・ステップニー〜ミニー・リパートン〜レオン・ウェアらへの敬愛が滲む。サイ・スミスがこみ上げるように歌うミニー・リパートン「Inside My Love」(レオン・ウェア作)の胸を締めつけるメロウ・ラヴァーズ・ロック(7)。アース・ウィンド&ファイアー「That's The Way Of The World」(チャールズ・ステップニー・プロデュース)をロック・ステディー風に仕立てたダビー&レイドバック・スタイルの(9)は、ジョニ・ミッチェル『Blue』のカヴァー・アルバム『Still Blue』を発表しているケヴィン・サンドブルームの歌声が滋味深く響く。チャールズ・ステップニー制作、ミニー・リパートン参加のロータリー・コネクション「I Am The Black Gold Of The Sun」のブラジリアン・ジャズ・リメイク(10)は、かつてのニューヨリカン・ソウル×4ヒーローのように、ジョー・クラウゼルをリミキサーに迎えて、12インチを切ってほしくなる。
アビアとローリン・タリーズは共にロバート・グラスパーがピアノを弾く。(8)はマイロンあたりを思い起こすアコースティック・ギターが印象的なジャジー・ソウルの逸品だが、(12)は狂おしくも切ないプリンスのカヴァーで、グラスパー特有のミニマルなフレーズも耳を惹く。一聴してミニー・リパートンを思わせる(11)も、グラスパーらしいロマンティシズムをたたえたエレピ舞う艶やかなアレンジが、「Winter」の夜を温めてくれる。
ミニー・リパートンの影響が色濃いのも、最近のシーンの大きな特徴だと思うが(例えばアレサ・フランクリンと比べてみてほしい)、(13)は母から子供の頃プレゼントされたミニーの『Adventures In Paradise』が音楽的ルーツ、と自ら語るNYのブルー・アイド・ソウルガール。デビューEPがデクスター・ストーリーと同じキンドレッド・スピリッツからのリリースだったヘヴィーに、「Wonderlove (For Minnie)」という曲があったのを思いだす。その気だるいメロウネスには、エリカ・バドゥ/アメール・ラリュー/ジル・スコットとの共鳴も感じられる、ジャジーR&Bの新星だ。
オーストラリアはメルボルンのフューチャー・ソウル・グループの(14)も、ミニー・リパートンの瑞々しさを思わずにいられない。メロウに溶けるエレピ、柔らかなグルーヴと儚げなコード展開。ジャイルス・ピーターソンの最新コンピ『Brownswood Bubblers Nine』には、この曲も含めてフリー・ソウル・フリークにお薦めしたい傑作が多い。
(15)のジェシ・ボイキンス3世は、クリス・ターナーや、ホセ・ジェイムス『No Beginning No End』での共作が光っていたエミリー・キングも属する、“The Romantic Movement”というコミュニティーを主宰しているが、やはりマーヴィン・ゲイ(あるいはディアンジェロやマックスウェルも)を思わせる歌手としての魅力も抗いがたい。個人的にはコリーヌ・ベイリー・レイ「Closer」をカヴァーしているのも嬉しいが、ここで取り上げるべきはローリン・ヒル/エリカ・バドゥの“Refix”だろう。静かに燃える炎のような密やかなメロウネスは、「Toru II Toru」では毎回のように推薦しているグレッチェン・パーラトがロバート・グラスパーやテイラー・アイグスティと作った『The Lost And Found』と共振する。試しにこの曲の代わりに彼女によるローリン・ヒル/メアリー・J.ブライジのカヴァー「All That I Can Say」を同じ位置に入れてみてほしい。サウンドの質感や温度感はもちろん、90年代クラシックへの回帰とリスペクト(継承と発展)という意味でも、その互換性に異論の余地はないはずだ。ジャズとソウル〜R&Bが隣接する現在のNYの音楽シーンの豊かさの、ひとつの証左だと僕は思う。
(16)はそんなジャズ・サイドを代表して、前作『The Source』ではグレッチェン・パーラトが「Journey」を歌っていたケンドリック・スコット・オラクルの新作『Conviction』から。ピアノはテイラー・アイグスティ。リリカルな抑えたアンサンブルに、しみじみと沁みる歌はアラン・ハンプトン。彼もグレッチェン・パーラト『The Lost And Found』で客演していた。ロバート・グラスパーが昨年プロデュースしたリオーネル・ルエケのブルーノート盤『Heritage』で、グレッチェン・パーラトが歌っていたことを想起したりもする。
そして待望だったジェイムス・ブレイクのニュー・アルバム『Overgrown』からの先行カット(17)。僕は一貫して、彼をポスト・ダブステップというよりソウル・ミュージック、真夜中のブルー・アイド・ソウルとして聴いている。深く胸に沁みいる歌声と、暗闇が蒼く揺れる陰影のような震える音像。今回もプリンスの影がかすかに見える。
(18)は今年になっていちばん気に入っている曲なので、敢えてここに。夢の中を彷徨うようにスウィートで幻想的な音の万華鏡『News From Nowhere』のハイライト。もはや全くポスト・ダブステップではない。これもまた、僕に言わせればメランコリックでアンビエントなブルー・アイド・ソウル。確かにビーチ・ボーイズ、そしてジェイムス・ブレイクの残像を感じるのは僕だけだろうか。
最後は、渡辺亨さんが前回の「Toru II Toru」でクリスマス・ソングという解釈で選曲していた(19)。ホセ・ジェイムスと比較されることもある、NYブルックリン出身のソウルフル・ジャズ・シンガー。僕はどちらかと言えばグレゴリー・ポーターの硬派な側面が好きだが(ギル・スコット・ヘロンを思いだすような「Black Nile」とか「1960 What?」とか「On My Way To Harlem」とか)、ジャズだけでなく、ソウルを歌っても彼の慈愛に満ちた声は素晴らしいと実感できる。ダニー・ハサウェイを聴いているときのような心暖まる感じ、何ものにも代えがたい。


シュギー・オーティス『Inspiration Information』をめぐる冒険
Selection & Text by Toru Hashimoto (SUBURBIA)

(1)Peaking Lights「Beautiful Son」
(2)Windsurf「Baby Bamboo」
(3)Shuggie Otis「Island Letter」
(4)Marcos Valle「Bicho No Cio」
(5)Theo Parrish「I Love You」
(6)Slakah The Beatchild「Wanna Do」
(7)Jose James「It's All Over Your Boby」
(8)D'Angelo「Spanish Joint」
(9)Prince「The Ballad Of Dorothy Parker」
(10)Edgar Jones & Friends「All The Things You Are」
(11)Sly & The Family Stone「Frisky」
(12)Otis G. Johnson「Time To Go Home」
(13)Shuggie Otis「Pling!」
(14)Timmy Thomas「I've Got To See You Tonight」
(15)K & B「Hello My Love」
(16)Dump「NYC Tonight (Version Shintaro Sakamoto)」
 
この春に来日公演が決まり、1974年の名作『Inspiration Information』が未発表18曲のボーナス付きでリイシューされるシュギー・オーティス。今朝早く、友人の山下洋から、Twitter上のコリーヌ・ベイリー・レイの発言として、こんな素敵な言葉がナイス・タイミングで送られてきた──「just got tickets for shuggie otis.‘Inspiration Information’is so evocative of late summer, salty air and romance, it's dream music for me」。そう、彼の魅力は、ブルース/R&Bの巨匠ジョニー・オーティスの息子で『Super Session』の早熟の天才ギタリスト、といったロック的歴史観とは別の次元で、広く心ある音楽ファンに伝わっているのだ。
「Toru II Toru」では、僕が“耳で聴いた”シュギー・オーティスをめぐる「People Tree」を描こうと1/22の「usen for Cafe Apres-midi」新年選曲会で試みたセレクションを基に、そのインデックスをたどる形で、彼の音楽の多面性や今日的意味を示唆できたらと思う。
まず最初に選んだ(1)(2)は、どちらも昨年夏に発表されたばかりの、カリフォルニアのデュオ・ユニットによる極上トラック。異国情趣を感じさせ、ダビーでユートピックでビューティフル。ピーキング・ライツは「なんとなく夢を」(by ゆらゆら帝国)と言いたくなるハルモニア〜クラスター&イーノに通じる叙情性に富んだアンビエンス、ウィンドサーフは甘美な潮風に吹かれるようにブリージンなセンスが心地よい。
そうした夢幻的でありながら覚醒的な、ビーチ・カルチャーとサイケデリック・カルチャーが混じり合うような感覚をシュギー・オーティスにも見出せることを示すために、(3)を置いた。かつて『Inspiration Information』がデヴィッド・バーン主宰ルアカ・バップからCD化された際に(確かジャイルス・ピーターソンやショーン・オヘイガンの讃辞が記載されていた)よく使われた、“30年早かった”という表現を冠したい、夢見心地のバレアリックAOR。旅先のホテルで夢から覚めた朝、僕はこんな曲を聴いていたいと思う。ディガブル・プラネッツが「For Corners」でサンプリングしていた。
『Inspiration Information』を聴いていると、僕はGREAT 3のことを思う瞬間がたびたび訪れるのだが、12年前に『Marcos Valle for Cafe Apres-midi』を作ったときに、片寄明人くんと話していて意気投合したのが、ブラジル音楽やブルースといった枠をこえたマルコス・ヴァーリとシュギー・オーティスの親和性だった。その象徴としてアルバムを一枚挙げるなら、プールに潜るマルコスのジャケットで知られる1973年の『Previsao Do Tempo』。エレピやシンセの醸しだす浮遊感、とろけるように幻惑的なメロウネスはまさに兄弟作という感じだが(バックの演奏は初期アジムス)、ご存知の方も多いのではないかと今回は、レオン・ウェアとシカゴが参加した1981年のアーバン・ソウル盤『Vontade De Rever Voce』から、バレアリック性という観点も踏まえ(4)をピックアップしてみた。
(5)のセオ・パリッシュは、シュギー・オーティス「XL-30」からディアンジェロもカヴァーしていたプリンス「She's Always In My Hair」につないだミックスCD-R『Eclectic Asthetic』が忘れられない(その後シュギーと共演するモス・デフ「May-December」も収録)。ここでは混沌とした気持ちよさとローファイな快感が『Inspiration Information』の遺伝子を継ぐ『Ugly Edits』の中で、最もDJプレイすることの多いピースフルなトラックを選んだ。
(6)は新年選曲会で、リリースされて間もないジャイルス・ピーターソン選曲コンピ『Brownswood Bubblers Nine』から、シュギー・オーティスを意識して、まずかけたいと思ったカナダの黒人シンガー・ソングライター/トラック・メイカー。そこから(7)(8)(9)という流れは、すぐにイメージが浮かんだ(ホセ・ジェイムスはやはりディアンジェロ的な「Make It Right」も捨てがたかったが)。シュギー・オーティスとその遺伝子を同じくするブラック・ミュージック、言ってみればインナー・トリッピン・ファンク。ロバート・グラスパー〜ホセ・ジェイムスに体現される現行シーンから過去を見渡せば、ディアンジェロ『Voodoo』〜プリンス『Sign Of The Times』の向こうに、『Inspiration Information』が見える。
イギリスのロックで近年、シュギー・オーティスの匂いを感じた作品として、エドガー・ジョーンズ&フレンズの『The Masked Marauder』も見落とせない。オープニングからスライ『暴動』へのオマージュのようだが、(10)はジェローム・カーン作の名ジャズ・スタンダードのスライ&ザ・ファミリー・ストーン・スタイルのカヴァー。夢遊病的な揺らぎ、プリミディヴなメロウネス。それはシュギー・オーティスのために用意された言葉のようでもある。
そして(11)へ。90年代以降は、シュギー・オーティスを語るとき、まず引き合いに出されるのはスライ、ということが多いように思う。歌やリズム・ボックスと絡みながらリードするベース・ライン、ローファイでポリリズミックなグルーヴの愉悦。選曲は「Spaced Cowboy」でも「Can't Strain My Brain」でも「Skin I'm In」でもよかったが、デッドな音像に刻まれるダウナー・ファンク〜アブストラクト・ブルースという視点から絞り込んだ(すべて『Free Soul. the classic of Sly & The Family Stone』で聴くことができる)。
昨年ヌメロ傘下のチョコレート・インダストリーズから発表されたリズム・マシーンを使ったオブスキュアなベッドルーム・ソウルを集めた『Personal Space: Electronic Soul 1974-1984』は、その惹句にスライ/ティミー・トーマス/シュギー・オーティスの名が引用されていたが、同時にシュギーの再評価を新しい段階へと推し進めるコンピでもあったと思う。(12)はそこに収められた僕が死ぬほど好きな曲だが、他にもシュギーとの近似性を感じさせる密室的なサウンドを、いくつか見出すことができる。
再び前後の曲との相性のよさを実感してもらうためにリストアップしたシュギー・オーティス本人の(13)は、僕が眠りに落ちていくその瞬間に聴いていたいメランコリックでメロウなインストゥルメンタル。春に陽の目を見る未発表曲の中では、こうしたディアンジェロにも通じるベッドルーム・メロウネスへの期待が高まっているのではないだろうか。
哀愁リズム・ボックス・ソウルの代表ティミー・トーマスは、裏「Why Can't We Live Together」とでも言うべき(14)を。実際のDJプレイでは、バック・ビートが心地よいShoesによる「Why Can't We Live Together」のダブ・ミックスを、『Inspiration Information』で最もティミー・トーマス的な「Aht Uh Mi Hed」(シネマティック・オーケストラも編集盤『Late Night Tales』のために選んでいた)のMatt Moroderによる絶品リエディットと並べてかけたりしているが。
最後はそんな12インチ群から。(15)はつい最近、アル・グリーン「Love And Happiness」のShoesダビー・エディットからつないでフロアが爆発したのが印象深くてエントリー。ブラザーズ・ジョンソンのカヴァーでNo.1ヒットとなったシュギー・オーティスの代表曲「Strawberry Letter 23」を、イタリアのK & Bがクラブ仕様にリグルーヴ。
(16)はヨ・ラ・テンゴのベーシスト、ジェイムス・マクニューによるソロ・プロジェクトDump(プリンス「Pop Life」の甘酸っぱいカヴァーも大好きだった)が、故GG・アリンのNYパンク・クラシックをメロウ・ディスコにアレンジ、それを坂本慎太郎がプロデュースしたヴァージョン。『Personal Space: Electronic Soul 1974-1984』そしてシュギー・オーティスを愛好する彼の“今”が、フロア・フレンドリーなサウンド・メイキングの随所にちりばめられている。
本来であれば、『Inspiration Information』への脚光を、サンプリングの面からも深く検証していきたいところだが、「Rainy Day」を使ったビヨンセ「Girl From Virgo」、「Not Available」を使ったJ・ディラ「Donuts (Outro)」という、すぐに思い浮かぶ例を挙げるに留めて、今回はこの辺でペンを置こう。ブルース〜ファンク〜ジャズ〜ソウル〜SSW……それだけでは説明のつかないシュギー・オーティスの多面的な魅力の一端が、少しでも伝わっていれば嬉しい。
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