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12月22日──橋本徹のコンピ情報&「Toru II Toru」通信
ずいぶん久しぶりという感じがする、僕の新しい選曲コンピ『Haven't We Met? 〜 Sparkle Love Songs』が、カフェ・アプレミディに先行入荷しました。来週中には、HMVウェブサイトに全曲解説がアップされる予定です。ぜひぜひ聴いてください。カフェ・アプレミディのクリスマス・メニューも本日からスタート。2012年はコンピレイションを6枚しか制作できなかったのが、無念でなりませんが、この3連休は、ささやかながら今年のクライマックス、と思いたいですね。
今日はJ-WAVEで20分間、FM NORTH WAVEで55分間、僕がセレクトしたノンストップ・ミックスもオンエアされます。ちょうど今J-WAVEから、『Haven't We Met? 〜 Sparkle Love Songs』にも収めたトレイシー・ソーン「Joy」に続いて、昨年『Haven't We Met? 〜 Season's Gift EP』で待望のCD化となったディーン・グレッチ「What Do You Want This Year For Christmas」が流れてきたところ。ポータブル・プレイヤーにのっているのも、クリスマス前の週末気分でロネッツ(といってもフィル・スペクターのクリスマス・アルバムではなくて、いちばん好きな1969年A&Mのシングル盤「You Came, You Saw, You Conquered!」ですが)。CDラジカセには、昨夜の「Toru II Toru」でメアリー・J.ブライジとの「Now Or Never」をかけて、個人的に最も胸に迫るものがあったケンドリック・ラマー。
そう、今年最後の渡辺亨さんとのDJナイト「Toru II Toru」も大盛況で、ありがとうございました。「2012 Best Selection」特集のレジュメとして配布された「Toru II Toru」フリーペーパーへの寄稿を、アプレミディのホームページにも掲載しておきます。僕が選んだ年間ベスト20枚、この一年を振りかえりながら聴いていただければと思います。

2012 Best Selection for Toru II Toru 橋本徹セレクション
Selection & Text by Toru Hashimoto (SUBURBIA) 
(1) Paul Buchanan『Mid Air』
(2) Frank Ocean『Channel Orange』
(3) Anthony Valadez『Just Visiting』
(4) Georgia Anne Muldrow『Seeds』
(5) Flying Lotus『Until The Quiet Comes』 
(6) Mala『Mala In Cuba』 
(7) Lapalux『When You’re Gone』 
(8) Andy Stott『Luxury Problems』 
(9) IG Culture『Soulful Shanghai』 
(10) Traxman『Da Mind Of Traxman』 
(11) Antonio Loureiro『So』 
(12) Tibless『Afro-Beat-Ado』 
(13) Pablo Juarez『Sumergido』 
(14) Paolo Fresu & Omar Sosa feat. Jaques Morelenbaum 『Alma』 
(15) Vinicius Cantuaria『Indio De Apartamento』 
(16) Eric Chenaux『Guitar & Voice』 
(17) Ombre『Believe You Me』 
(18) Tracey Thorn『Tinsel And Lights』 
(19) Robert Glasper Experiment『Black Radio』 
(20) Jose James『No Beginning No End』 
(順不同)

2012年は、個人的にはコンピレイション『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』を作ることができたのが大きかった。それによって、震災から1年、リリースされた春ごろを機に、ここ数年にわたって続いていた内省的なモードに変化の兆しが見え、次第に“仮説としてのアーバン・ミュージック”へと傾斜していったように思う。『Seaside FM 80.4』は、その結実だった。 
ここに挙げた20枚に加え特筆したいのは、2011年リリースながら、ポール・ブキャナン(1)と並ぶほどよく聴いたスコット・マシューズとシモン・ダルメ。そしてやはり、僕にとって大切な“独りの音楽”の集大成とも言える『ブルー・モノローグ Daylight At Midnight』。年の前半は、リスニング・タイムも真夜中、午前0時から4時ということが多かった。 
夏前ごろからは、少しずつ昔のように、日常生活の中で音楽と親しむことができるようになっていった。そういう意味も含めて、2012年を代表する一枚を挙げるとしたら、やはりフランク・オーシャン(2)だろうか。CDラジカセの横に置きっぱなしになっていて、ついつい聴いてしまった。マーヴィン・ゲイを彷彿させる「Sweet Life」は、ファレルとチャーリー・ハンターの貢献も見逃せないだろう。アンソニー・ヴァラデス(3)がそれに続くが、プラグ・リサーチというレーベルへの共感も付記しておきたい。昨年のベスト・アルバム20に選んだドメニコを、ボーナス・トラック付きで再リリースするあたりにも好感を抱いた。ホセ・ジェイムス(20)は来年初頭のリリースだが、ロバート・グラスパー・エクスペリメント(19)から連なる、アーバン・“リベラル・ブラック”・ミュージックの重要作として。 
昨年No.1としたジェイムス・ブレイクが象徴しているように、2010年代に入ってBPMも落ちてきて、現在進行形の音楽に惹かれることが増えていると感じる。そこで僕が必然的に意識するようになっているのは、揺らぎやアンビエントな空間性だ。ラパラックス(7)はジェイムス・ブレイク、アンディー・ストット(8)はブリアル(とりわけ素晴らしかったニュー・シングル)との世界観の共鳴を思わずにいられない。 
特別表彰するなら、カムバック賞として、マット・デイトンの好サポートも光っていたビル・フェイ、ライヴ盤として、アルゼンチンから届いたばかりの才気あふれるディエゴ・スキッシを。今年の20枚は、よく聴いた作品を50枚ほどリストアップし、そのアーティストの最高傑作もしくは代表作と言えるか、という基準を設けて絞り込んだ。つまり、愛聴したアーティストでも、個人的なフェイヴァリットが他にある、というケースは選外とした。次点となった候補を列挙するなら、カルロス・アギーレ/アンドレス・ベエウサエルト/ラムチョップ/JBM/グランド・サルヴォ/ダナ・トゥピナンバ/エウジェニア・メロ・イ・カストロ/キーニョ/マリオ・ファルカォン/ティト・マルセロ/ジョー・バルビエリ/マテオ・ストーンマン/メロディー・ガルドー/リオーネル・ルエケ/ジャベル・シソコ/セクバ・バンビーノ/カルロス・ニーニョ&フレンズ/ローレル・ヘイロー/ソニームーン/アクトレス/グルーパー&ミラーリング/ブライアン・イーノ/ジェブ・ロイ・ニコルス/スクール・オブ・アーキテクチャー/ボビー・ウーマック/ドクター・ジョン/ケンドリック・ラマー……といった感じだ。 
曲単位では、別紙の「usen for Cafe Apres-midi」の2012ベスト・セレクション選曲表を参照していただきたい。日本語の歌ではCarnationの「遠くへ」に胸をかきむしられた。古い歌では桑名正博「夜の海」と南佳孝「夏服を着た女たち」。「Glashaus」「届けられない祈り」「まだ見ぬ風景」など、身近な日本人アーティストのインストゥルメンタル作品も忘れがたい。 
コンピは、自分の作ったもの以外では、リズム・ボックスを使ったオブスキュアなベッドルーム・ソウル・ミュージックを集めた『Personal Space: Electronic Soul 1974-1984』。特にラストに置かれたオーティス・G.ジョンソン「Time To Go Home」には涙した。僕の『Seaside FM 80.4』と共振する、架空のFMステイションというコンセプトで編まれた『WTNG 89.9fm』も、ヌメロ発らしい好内容。3枚組のアドヴェンチャー・ミュージック10周年記念盤にも、歌心とミュージシャンシップが同居する、僕の好きなオーガニック&スピリチュアルな中南米音楽が詰まっていた。フランク・ドミンゲスに惹かれた『Feeling Feelin’』なども忘れられない好企画だった。 
リイシューは、恒例となったレア・フォーキー〜AOR、それにフォルクロリック・ジャズからフィーリンまで。思いつくままに名を挙げるなら、ビル&ロン・ムーア/ブリーズ/ブルー・ライト/プレンティス&タトル/エバンフロ/ランディー・ライス/ゲイリー・マークス/エリオット・レイニー/ジム・ポート/マイケル・J.バーセルマー/ドン・グレイサー/ベリンダ・ベル/アール・オキン/キケ・シネシ/ギジェルモ・リソット/ホセー・アントニオ・メンデス/グユン・イ・ス・グルーポ……。ジャズはやはり、ドン・チェリー『Organic Music Society』、続いてディー・ディー・ブリッジウォーターも参加したロイ・ブルックス『Black Survival』か。サロン・ジャズ・ヴォーカルの人気盤、ディスカヴァリーのスー・レイニーも祝福したいが。 
最後に、今年も多くの訃報が届き、敬愛する音楽家がこの世を去った。テリー・キャリアーを筆頭に、チャック・ブラウンやスピネッタ、ホセ・ロベルト・ベルトラミにオースティン・ペラルタ……心よりご冥福をお祈りしたい。


『Haven’t We Met?〜Sparkle Love Songs』ライナー

冬の日曜日の朝、ロンドンから小さな荷物が届いた。差出人は少し前に仕事をやめて旅を続けている友人だった。ロイヤル・メールのスタンプが貼られた荷物には、個性的で懐かしい筆跡の文字が綴られている。

包みをあけると、厚手の便箋のような大きさの箱に、コヴェント・ガーデンのポストカード・ショップの封筒に入ったアンティークの絵葉書が添えられていた。蚤の市で見つけたと記された絵葉書には彼女の近況が手短に綴られ、北欧のヘルシンキからロンドンに入ったことが書かれていた。彼女はテキスタイルやオーナメントなど、天使や星などをモティーフにした装飾品をいろいろと集めていて、封筒の中には輝く星を小さくあしらった飾り糸のティンセルが封入されていた。そして、赤と緑の草花の模様のラッピング・ペーパーに包まれた箱をあけると、そこには額に入った一枚の絵が収められていた。どこかマルク・シャガールの淡い色合いを思わせるような軽快な線のドローイングには、よろこびに満ちた二人が大切な何かを抱えるかのように抱きあっている様子が描かれている。それは、彼女が最近見つけたアマンダ・コリスという名のアーティストのドローイングで、そこに描かれた人物の笑顔は、ロンドンにいる彼女がいま幸せに満ちたりた気分でいることを伝えてくれるような気がした。朝の陽が射しこむ部屋で、彼女は今日も淹れたての熱いコーヒーを飲んでいるのだろうか。

エル・レコードのアート・モティーフになった“London / city of any dream”の写真集の光と霧に包まれたあの時代のロンドンの街に想いを馳せる。ロンドンの通りが美しく輝いていたあの時代が彼女はとても好きだった。僕は、しばらく滞在すると書かれているチェルシーの彼女の友人宅に宛て、“Tinsel And Lights”と描かれたポストカードに、トレイシー・ソーンの歌の歌詞の一節を書き記した。

“Because of the dark, we see the beauty in the spark”

吉本宏
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