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7月5日&6日──橋本徹のコンピ&DJ情報

この夏のアプレミディ・レコーズの最新コンピレイション『Moonlight Serenade For Star-Crossed Lovers』が、めざしていた通り7/7の七夕に入荷してきます(奇しくもNujabesの12インチ「Luv (sic) Part 4」と同じ日になりました)。CDの詳しい内容はHMVウェブサイトの“橋本徹の『ムーンライト・セレナーデ』全曲解説”に制作エピソードを混じえながら書きましたが(選曲の過程がうかがえる“特別付録”もあります)、収録曲&曲順をマスタリング当日に決定したことも、今作の大きな特徴かもしれません。今もスピーカーからカーム・カネラのスティーヴィー・ワンダー「Ribbon In The Sky」のカヴァーが流れてきて、胸の震えと心の高まりを抑えられなくなってしまいました。そこからファラオ・サンダース「Moon Rays」、マローン&バーンズ「Galactic Interlude」へのメロウ&サウダージな展開は、ひとつのハイライトと言えるでしょうか。中盤以降の「Clouds Across The Moon」〜「Life On Mars」〜「Grapefruit Moon」と切なくもロマンティックな名曲のカヴァーが連なるパートも、裏ハイライトだと思っていますが。
すべてのロマンティストに捧ぐ「星空で拾った音楽」──帯キャップに寄せたこのコピーは、『Haven't We Met ?』について友人のヒロチカーノが発した言葉と、亡くなられた美術作家の永井宏さんへのオマージュをこめて(そう、今回は初めて縦長のCDケースを採用しています)。ロマンティスト、の部分は今なら、非現実的な夢想家、と言いかえてもいいかもしれませんね。オープニング曲は、Ascaino - Menta with Carlos Aguirre「永遠の3つの願い」と迷っていましたが、やはり「Moon River」、今いちばん気に入っているノルウェイのGisle Borge Styveに。僕はこのヴァージョンを初めて聴いたとき、素晴らしい口笛のせいか、大好きなカエターノ・ヴェローゾがギターを抱いたノンサッチ盤の1曲目「Trilhos Urbanos」を思い浮かべずにいられなかったからです。そしてエンディングはもちろん「Star-Crossed Lovers」。僕はこの曲が印象的に描かれた村上春樹の「国境の南、太陽の西」のバー・カウンターの場面がたまらなく好きなのです。デューク・エリントンとビリー・ストレイホーンによるオリジナルも胸に迫りますが、ここでは繊細な儚さと鎮魂のニュアンスを求め、チェット・ベイカーとかつて共演していたジョー・ロカシオのソロ・ピアノを選びました。この演奏を聴きながら、改めて「国境の南、太陽の西」を読み返してみようかとも思っています。

ちょうど1か月前にリリースされた「usen for Cafe Apres-midi」10周年コンピ『Haven't We Met ?』も、おかげさまでご好評をいただいています(ハンドメイド・パッケージのラッピングを手伝ってくれた友人たちにも感謝!)。特に嬉しい驚きだったのは、人口2万人、うち半分はご年配の方だという北海道・美幌町のカフェ&雑貨店「森音」でアプレミディ・レコーズのフェアをやってくださり、たった半月で50枚を売り上げたという話でした(ありがとうございます)。東京以外でも、例えば神戸などはさすがのセールスを記録していて、確かに最近はCDショップ以外でCDを手にされる方が増えているのかな、と思わされます。アプレミディ・レコーズのフェアはタワーレコード渋谷店5Fでも始まりましたので、この機会にぜひ足を運んでみてください。ゆっくりと試聴して、お気に入りのコンピを選んでいただけたなら、とても嬉しいです(『Haven't We Met ?』を好きな方には、この春リリースされた『食卓を彩るサロン・ジャズ・ヴォーカル』『寝室でくつろぐサロン・ジャズ・ヴォーカル』なども大推薦ですよ)。CD1枚お買い上げごとに、新しく作った特製ポストカード2枚のプレゼントが用意されています。

それでは、精力的にDJを行った、このひと月を振り返っていこうと思います。まず6/3はカフェ・アプレミディで「Lots Of Lovin'」でした。ピート・ロックとバックワイルドがほぼ同時にケニ・バーク「Rising To The Top」の(それまでも使用頻度の高かったベース・ラインではなく)サビ前2小節をループした1994年をレミニス、というテーマを設けてのぞみましたが、カラー・ミー・バッド「How Deep」をかけていて、飲みに来てくれていた高木慶太に「橋本さんがニュー・ジャック・スウィングとは珍しいですね」と声をかけられたのが、妙に印象に残っています。この曲は僕にはニュー・ジャック・スウィングというより、プリンス初期の名曲「Crazy You」の遺伝子を受け継いだ、涙・涙の傑作なのです(ちなみに、トニ・トニ・トニ「Tell Me Mama」へとつなぎましたよ)。結局この日は最後も、同じ『Free Soul 90s 〜 Green Edit』収録曲でもあるR.ケリーの夏讃歌「Summer Bunnies」(Summer Bunnies Contest Extended Remix)のスピナーズ「It's A Shame」のリフにのせて、今は亡きアリーヤへ讃辞を捧げてフロアが沸きましたので、1994年というより、その前夜の輝きがよみがえる一夜でした。
6/5は中村智昭が始めたBar Musicの1周年を祝い、友人の小林恭/近藤淳と共にDJしました。心地よい空間に相応しいとびきりの音楽に彩られた最高のサンデイ・アフタヌーンでしたが、とりわけ思い出深くなるだろう特別なシーンに流れたのは、チャック・ブラウン「Misty」/バーニー・ストパク「Just The Way You Are」/イングマール・ヨハンソン「Eleanor Rigby」/フレディー・コール「Moving On - A Place In The Sun」といった名演でした。
6/11は『Haven't We Met ?』のリリース・パーティーを兼ね、「usen for Cafe Apres-midi」の放送10周年記念選曲会をカフェ・アプレミディで開き、本当に良い仲間に恵まれていることを実感した夜でした。ジョアン・ジルベルトとピエール・バルーをこよなく愛する男、ヒロチカーノによる「Samba Saravah」弾き語り、そしてセレクターが選んだすべての音楽が素晴らしかったと思いますが、そんな中から敢えて1曲だけ紹介しましょう。夜も更けた頃、高橋孝治がかけたR.E.M.の「Nightswimming」。村上春樹やトム・ヨークが好きだというのもうなずける歌詞にも惹かれ、僕はそれからしばらくの間、家路につく深夜に口ずさんだりしていました。
6/15の渡辺亨さんとの「Toru II Toru」は、リリースに先がけて流れた『Red Hot + Rio 2』のベイルート「O Leaozinho」やアリス・スミス&アロー・ブラック「Baby」といったカエターノ・ヴェローゾ・カヴァーで盛り上がったのも楽しかったですね。コラの音色が美しいトリオ・シェミラーニ&バラケ・シソコ「Alou Soroma」から、アルゼンチンのパブロ・シーグレル&キケ・シネシ「La Raynela」やタンゴ・ネグロ・トリオ「Camila」へのリレーで、DJブース前に人だかりができたりしたのも、この日ならでは。僕が26歳のとき初めて作ったコンピ『'tis blue drops』から、梅雨を涼しくしてくれるように爽やかでメロウなファットバック・バンド「Groovy Kind Of Day」を久しぶりにかけられたのも気持ちよかったです。雨傘をあしらった美しいジャケットもとても気に入っている(ジャック・ドゥミの映画「シェルブールの雨傘」の冒頭の俯瞰カットへ捧げたデザインです)『'tis blue drops』は、雨の雫をイメージして選曲したウィリアム・ディヴォーンに始まる一枚で、実際に雨の休日の午後にゆっくりと聴き直してみたりもしました(今では赤面してしまうライナーも、当時は一生懸命に書いたのを思い出して、どれだけ甘酸っぱさに胸を締めつけられたことか!)。


6/11も6/15もそうでしたが、当日は来場者の方に、僕がギル・スコット・ヘロンの死に直面して自主的に作らずにいられなかった(それはケニー・ランキンの命日に抱いた衝動でもありました)、『Free Soul Tribute To Gil-Scott Heron』というCD-Rをさしあげました。1995年にアイズレー・ブラザーズのフリー・ソウル・ベスト盤を編んだときのように、グルーヴィー/メロウの両テイストに分けて、本当にかけがえなく尊い名作ばかりを集めた2枚セットです。若い頃に彼の音楽を好きになったのは単純にカッコ良かったからですが、歳をとって、いちばん沁みる声になったなあ、と感じたのは今年の元日の夜、そのレコードを憑かれたように立て続けに聴いていたとき(何かの暗示だったのでしょうか)。そして今は、震災後のシヴィアな状況に置かれている日本において、とても示唆に富んだメッセージを、ギル・スコット・ヘロンの音楽は多く含んでいる、と痛感します。DJイヴェントでは、ノー・ニュークス・コンサートでの彼のライヴ「We Almost Lost Detroit」が黙示的に、まるで直前に行われたスペインでの村上春樹スピーチのサウンドトラックのように響きました。“Rest In Peace”とは彼のためにある言葉だと思います。僕はこのところ毎日、出かけるとき「I Think I'll Call It Morning」の歌詞を反芻しているほどです──“陽光の中、鳥の歌を聴き、自由について思う。雨よ、降らないでくれ。今の俺の気持ち”。

6/24の「ムジカノッサ」は、ゲスト・ライヴにワック・ワック・リズム・バンドを迎え、多くの懐かしい友だちと再会することができました。僕はある種のメッセージをこめ、ムーディーマン「Technologystolemyvinyl」/セオ・パリッシュ「Solitery Flight」という愛してやまないデトロイト・アンセムをスピン。このパーティーのオーディエンスに合わせて、ジャイルス・ピーターソンの嗜好を意識したりしながら、ホットフラッシュ・レコーディングスの音源を軸にダブ・ステップも織りまぜました。来日中だったマーク・Eの「Beat Down」から、トミー・ゲレロのカリンバ×ダブ「Spider And The Monkey」につないだりして、ビート・ダウン以降のグルーヴの魅力を何とか伝えることに腐心しながら。
さらに先週末は、大震災のために3月から延期になっていた、KZAや山下洋といった最高の顔ぶれによる渋谷・Ballでの「Disco Magic」でした。そして奇跡は起こったのです。僕のDJも終盤、ジェイムス・ブレイクの「CMYK」をプレイしていると、突如You The Rock★がブースに入ってきてマイクを握り、フリースタイルを始めたのです。ダブ・ステップ×ファスト・ラップの衝撃、という以上に、何とも言葉では表すことのできない、胸が熱くなる瞬間でした。その後のことは……テキーラのショットを久々に飲みすぎて、よく覚えていませんが。
その夜のDJセットでもそうだったのですが、夏が近づくにつれて(というか海でのDJが近づくにつれ)、僕の中で再び存在感を増してきているのは、トッド・テリエのリエディット&リミックス12インチ群です。どこまでも心地よい至福のリゾート感が音のシャワーのように降り注ぐフェリックス・ラバンド「Whistling In Tongues」、美しい夕陽が西の空に落ちていく風景を眺めながら聴きたいメロウな哀愁ボサ風味のスティーヴィー・ワンダー作マイケル・ジャクソン「I Can't Help It」(ブートレグですが)、とっておきのダビー&グルーヴィーなキラー・アレンジで完全にマイ・サマー・クラシックとなっているポール・サイモン「Diamonds On The Soles Of Her Shoes」(Tangoterje名義の「Diamonds Dub」)──今年の夏も無敵の3枚ですね。彼はクリス・レアのリエディットも手がけていましたが、まさに「On The Beach」気分。7月は逗子と江ノ島の海の家でのDJが控えているので、大活躍してくれそうです。7/31にカフェ・アプレミディでゲストDJにCalmを招いて開かれる「harmony」(その次もDJ YOGURTとナイス・ブッキングが続きます)も、そんなサマー・モードでチルアウトかつダンサブルに行きたいと思っていますので、このページの最後に掲載されるフライヤー原稿をチェックして、ぜひ遊びにいらしてください。

さて、そろそろ夜が明けてきました。ひとまずペンを置いて、この続きはまた明日にでも書くことにしましょう。“Music For Summer Dawn”という趣きで、東の空が美しいグラデイションに染まる朝方に聴くことの多いRobert Majewskiの「Ballad For Bernt」を就寝音楽に。クシシュトフ・コメダをカヴァーしたポーリッシュ・ジャズ、であると同時に60年代ブルー・ノート新主流派、特にハービー・ハンコックのあの頃の名盤(『Maiden Voyage』〜『Speak Like A Child』)を彷佛とさせるたおやかで叙情的なアンサンブルに身を委ねて、おやすみなさい。

7/6追記:まだ日中の暑さが残る初夏の夕暮れ。メロウ・スピリチュアルなセオ・パリッシュのダウンビート・ジャズ「Summertime Is Here」の12インチをかけて(本当に名曲ですね)、少しずつ火照りを醒ましながら、この1か月のリスニング・ライフをニュー・アライヴァル中心に振り返っていこうと思います。音楽を聴いて何か感じたときのメモとして役立てているtwitter(http://twitter.com/Toruhashimoto)を頼りに。
珠玉のサウダージ・グルーヴ「Nada Mais」を去年の「usen for Cafe Apres-midi」ベスト・セレクションに選んでいた、ブラジリアンAORのデニ『Veloz』も、こんな時間に心地よい夕焼けが似合う名作集だな、と再認識したりしていますが、何と言っても特筆すべきは、ピアノ・トリオをバックにしたサンパウロのジャジーな歌姫パトリシア・タレム。ミナスの至宝フラヴィオ・ヴェントゥリーニとの共演で、あのロー・ボルジェス/ミルトン・ナシメントの「Clube Da Esquina 2」(世界一好きな曲のひとつです)の胸が詰まるカヴァーを聴かせてくれます。もう少し陽が落ちた頃には、マイケル・フランクス新作のオープニング曲、その名も「Now That The Summer's Here」が、夕闇せまる街の風景をセピア色の郷愁で包んでくれますね。
注目の『Red Hot+Rio 2』は、2枚組のそれぞれ冒頭を飾る「Baby」「O Leaozinho」以外にも、ベック&セウ・ジョルジ/カエターノ・ヴェローゾ&デヴィッド・バーン/マッドリブ&ジョイスなど、華やかな顔ぶれを見ているだけで満腹になりますが、ジョン・レジェンド/アロー・ブラック&クララ・モレーノ/カエターノ・ヴェローゾ×プレフューズ73/マリーザ・モンチ&デヴェンドラ・バンハート&ホドリゴ・アマランチ/ベベウ・ジルベルトといった比較的しっとり聴ける曲も好きです。前々からミア・ドイ・トッド&ホセ・ゴンザレスのロー・ボルジェス「Um Girassol Da Cor Seu Cabelo」のカヴァー(オリジナルは『街角クラブ』収録で、サヴァス&サヴァラスも取り上げていましたね)を待ち望んでいた僕は、ヴィヴィッドなジャケットを見た瞬間、15年前「bounce」の編集長をやっていたときに、『Red Hot+Rio』前作の特集記事を組んだことを思い出して、懐かしさにおそわれたりもしました。
ブラジルではドメニコの新譜『Cine Prive』も良かったですね。僕はUSENスタジオで、マルセロ・カメーロの陽だまりの口笛「Doce Solidao」から、そのアルバムに収められている白日夢のような「Os Pinguinhos」への選曲が気持ちよくて、2週続けてウトウトしてしまいました(そこからタチアナ・パーハ&アンドレス・ベエウサエルトへ、という流れを思い描いていたのですが……)。渡辺亨さんがドメニコとの好相性を指摘していたシー・アンド・ケイクの『The Moonlight Butterfly』からは「Monday」を選んで、ヌメロから復刻された同じミディアム・メロウ・グルーヴのファザーズ・チルドレン「Who's Gonna Save The World」を連ねたりしています。
そして夏の夜のヘヴィー・ローテイションは、編まれたばかりの好企画、ジョン・ベルトランの『Ambient Selections』。メロウに揺れるマイ・フェイヴァリット・トラック「Sweet Soul」や体感温度を涼やかに下げてくれる「Collage Of Dreams」など、アコースティックなアンビエント・テクノの逸品揃いです。さらに深い夜には、喝采のコラボレイション、ブッゲ・ヴェッセルトフト&ヘンリク・シュワルツや、ニンジャ・チューンのSSW、フィンクへと進んでいったり。そうそう、忘れてはいけない、サーストン・ムーア(&ベック)『Demolished Thoughts』も真夜中の愛聴盤です。

新着12インチでは、最近はデトロイト・テクノ〜ハウス系のトラックが冴えている元スラム・ヴィレッジのアンドレスがマイケル・ジャクソンの「Rock With You」をリコンストラクトした「As We Rock On」を、ムーディーマンも参加した「Music Institute」20周年EP最終章からのアルトン・ミラーや、ケリ・チャンドラーによるニーナ・シモンのリエディット「Westwind」と共に、DJプレイに組み込んでいますね。リイシューでは、僕にとって青春の一曲と言ってもいい90年代「Free Soul Underground」の思い出が詰まった「You'll Never Know」のグウェン・コンレーや、「Suburbia Suite」を作り始めた20年ほど前はこんな中古レコードばかり買っていた“口笛×スキャット×ヴァイブ=イタリアン・ボサ”のフランコ・チェリが嬉しかったですが、やはり話題の的は、来月予定されているビリー・パーカーに尽きるのでしょうね。かれこれ10年は知り合いのディレクターに片っ端からCD化を働きかけ、どんなに手を尽くしても権利関係が明らかにならなかった、ストラタ・イースト(いやスピリチュアル・ジャズ)屈指の人気盤。とはいえ最近の僕は、どちらかと言うと地味な(見すごされがちな)リイシューに、できるだけ目を向けるように心がけています。ひとつ例を挙げるなら、マイケル・ディーコンのセカンド、ジャケットも素敵な『When You Know It's Home...』。僕自身も『Haven't We Met ?』エントリーの名曲「Give What You Can」を筆頭に、ファースト『Runnin' In The Meadow』の素晴らしさにばかり気を取られていましたが、ハートウォームな「Melody, Melody Carry Me Home」「Mushroom Soup」などが並び、ベニー・シングスの『Art』では「Downstream」が好き、というような音楽ファン(僕のことです)には強くおすすめしたいです。
そして最後に、そんな愛すべき方たちにぜひ推薦したいのが、まもなく日本編集のアンソロジーが出るマントラー。ドイツはトムラブのSSWですが、僕にとっては21世紀に入って最も好感を抱いているアーティストのひとりです。メロディー/リズム、アコースティック/エレクトロニック、ホワイト/ブラック、ビター/スウィートの案配が絶妙で、何より独特の「揺らぎ」に惹かれます。ベニー・シングス/モッキー/スティーリー・ダンと彼らのフォロワー/ひとりブライアン・ウィルソン/ソロ初期トッド・ラングレン/ロバート・ワイアット/シャギー・オーティスあたりの固有名詞を引き合いに出したくなりますが、その浮遊感漂うDIYなAORサウンドは唯一無二。「Time-Go-Round」「Rigret」から「Playin' Along」「Undying Eyes」まで「usen for Cafe Apres-midi」のレパートリーも網羅されていますので、これはジョン・ベルトラン『Ambient Selections』に優るとも劣らない好企画、と言えるでしょう。

それでは今日はこの辺で。長く音楽を聴いていて良かったなあ、と不思議な感慨に浸ったアジムスのライヴ(やはり、あのFM番組の記憶ゆえでしょうか)で、ふとなぜかエイフェックス・ツインやマウント・キンビー〜ゴールド・パンダを連想して、彼らは昔ほど未来的な音楽を奏でていたんだな、と感じたことなど、まだ書き足りないような気もしますが、次回の[staff blog]はあまり期間をあけずに更新しよう、と心に誓い切り上げたいと思います。僕はこの夏のコンピ制作は、スウェディッシュ・ジャズ・レーベル「Spice of Life」の10周年記念盤、井出靖さんが主宰するグランド・ギャラリー音源の『Free Soul Grand Gallery 〜 Chill-Out Mellow Lovers』、そして『Moonlight Serenade For Star-Crossed Lovers』の兄弟編となる「夕陽・虹・黄昏」をテーマにした一枚(ジャケットはもう、最高に美しいデザインをイメージできています!)を予定しています。リリースは夏の終わりから秋の初めにかけてになりそうです。

『Moonlight Serenade For Star-Crossed Lovers』

夜も更けて、店にはまたいつもの静けさが帰ってきた。それまでオリジナルのバラードを演奏していたピアノ・トリオのリーダーは「スタークロスト・ラヴァーズ」のイントロをゆっくりと弾きはじめた。星が儚く輝くような鍵盤の響きに、バーの店主はこの感覚をどこかで味わったような気がしたが、それが何かは思いだせなかった。やがて、最後のひとりの女性客が店を後にすると、バー・カウンターには、飲みかけのカクテル・グラスと彼女が残したどこか懐かしく親密な香りが漂っていた。

“スタークロスト・ラヴァーズ”は、「ロミオとジュリエット」のフレーズとして知られる“薄幸の恋人たち”を意味する言葉で、シェイクスピアを愛するビリー・ストレイホーンとデューク・エリントンによるシェイクスピア組曲『Such Sweet Thunder』のアルバムに収められた一曲だ。恋人たちを交わることのないふたつの星になぞらえ、デリケイトなハーモニーがふたりの切ない心情を描いている。星にまつわる恋の歌はその輝きのように繊細に響くが、神秘的な月もまた淡く美しい歌のモティーフになった。

月明かりとともに思いだされるのは、グレン・ミラーの作曲した「Moonlight Serenade」だろう。情感あふれる曲想は、満月の明かりに照らされて、待ちきれない恋人たちのシルエットがひとつに重なるような甘い雰囲気に満ちている。“僕は戸口にたって君を待っている。僕は月明かりの歌を歌う。バラはムーンライト・セレナーデにため息をつく”。後に、ミッチェル・パリッシュによって香りたつような歌詞がつけられ、夏の夜にほのかに輝く月の光が、永遠の調べとなって優しい想いを運んでゆく。人は恋をすると、胸に秘めた切ない恋心を夜空に輝く星や月に託して歌ってきた。

ヘンリー・マンシーニが麗しきオードリー・ヘプバーンに捧げた「Moon River」は、映画「ティファニーで朝食を」の挿入歌で、“夢を追うあなた、心傷つけるあなた”と“ふたりの漂流者”がやわらかなメロディーに揺られてさすらうさまを描いている。小ぶりなティアラをのせたオードリーの微笑には誰もが恋をすることだろう。口笛を響かせたノルウェイの男性シンガーと、ハーモニカで郷愁を漂わせたオーストラリアの女性シンガーによる歌には、それぞれの魅惑的なオードリーの姿が重ねられる。ディズニー映画では、「ピノキオ」に挿入された名曲「When You Wish Upon A Star」がある。“星に願いをかけるとき、あなたがどんな人であろうと、心に願うことはかなうでしょう”。そのメロディーと歌詞には大切な人に想いを届けるような温もりが宿っている。ブロッサム・ディアリーが優しい雰囲気に包まれてピアノと戯れるように歌う「Fly Me To The Moon」は、“私を月へと連れだして。星々のあいだで歌わせて”と様々な表現で想いを伝えようとする可憐な恋心を伝えてくれる。数多くの名曲を生んだスティーヴィー・ワンダーは、「Ribbon In The Sky」で“この夜のためにずっと祈っていた、星が君を僕のもとへ導いてくれるように”と、空にかかったリボンを運命の赤い糸に見立て、僕たちは空を超えてつながっていると、大切な人への大きな愛を歌っている。

胸を焦がす狂おしい想いにあふれた歌は、どれもがほのかな切なさを帯び、秘薬のようにロマンティックで、蒼い草花の匂いを感じさせ、吐息のような甘いささやきが聴こえてくる。

吉本宏



「harmony」
7/31(日)18時から24時までカフェ・アプレミディにて入場無料!
昨年末elevenでのジョー・クラウゼルは、ラストにビル・ウィザース「Lovely Day」をプレイ。かつてフリー・ソウル周辺で耳にすることが多かったこの曲ですが、彼によるエディットが施されたと思われるその曲は、新しい響きを持っていました。昨今、有名無名を問わず、様々なハウスDJたちが、生音のソウル・クラシックスをプレイする場面に出会うことが多くなってきたように感じられます。新しい何かが始まる胎動を感じます。生音と4つ打ちの間をたゆたう「harmony」も、その流れにあるのかもしれません。「harmony」第12回のゲストDJは、Calm。生音から4つ打ちまで自在に操る彼のDJは、「harmony」で最も待ち望まれたもののひとつでした。今回も、一緒に、楽しみましょう!(Takahiro Haraguchi)

harmony classics
V.A. / Chill-Out Mellow Beats 〜 Harmonie du soir
ゲストDJにCalm、と聞いてすぐに思い浮かべたこのCD。テン・シティー「All Loved Out」のジョー・クラウゼルによる絶品ピアノ・ダブ、ファラオ・サンダース「Moon Child」、ジェフテ・ギオム「The Prayer」、ライズ「Message To The Architects Pt.1」、ドン・チェリー& ラティフ・カーン「One Dance」など、Calmへのラヴ・レターのようにも聴くことができるはず。「harmony」に相応しい慈しみに満ちた“夕べのしらべ”。(橋本徹)

Theo Parrish / Summertime Is Here
夏が近づくと針を落としたくなる、決して色褪せることのない名曲。Theo Parrishの楽曲の中でもこの曲が好きな人、多いですよね。日曜の夜のカフェ・アプレミディでこの曲を聴きながら、静かに夏を感じるのも素敵です。(haraguchic)

The Clark Sisters / You Brought The Sunshine (Into My Life)
アフター・アワーズの定番だが、個人的には夏を感じるのでチョイス。レゲエ調リズムでもったりと始まるイントロに、タイトなコーラスから一転、サビで一気に駆け上がる開放感が堪らない。派手さはないが巧みなコーラス・ワークも、息の長いゴスペル・グループとのことで納得。(NARU)

Liquid Variety / The Edge
決して派手な曲ではない。ただ……感情的にも繊細に鳴り響くElectric Guitarの音が胸を熱くさせる。今年もこの季節がきたか……と、しみじみ感じさせてくれる一曲。ナツノハジマリ。(YUJI)

Donald Byrd / Lansana's Priestess
言わずと知れたSky High Production。Theo ParrishのミックスCD『These Days & Times』を聴けば、絶妙のイコライジングもあってか、この曲の強靭なビートと底知れぬ魅力を再認識できるはず。Donald Byrdのトランペットは今でもオレに「もっと高く、もっと遠くへ」とささやく。(Takahiro Haraguchi)

Frankie Knuckles featuring Adeva / Whadda U Want (From Me) - Frankie's Deep Dub
名盤数あれど、まず挙げるとしたらこの曲。高揚感あふれる楽曲もさることながら、その研ぎすまされた音やトリックも最高。今でもサウンド・チェックの最初に必ず使用する永遠のクラシック。(Calm)
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