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3月24日&25日──橋本徹のアプレミディ・レコーズ&DJ情報

3/11に起きた東北関東大震災で被災された皆さまに、心よりお見舞いとお悔やみを申し上げると共に、一日も早いご復興をお祈り申し上げます。
被災された皆さまのご心労には比べるべくもありませんが、僕自身も地震から3日間ほどは、音楽を聴ける心持ちにさえなりませんでした。今はようやく、僕個人の生活は、少しずつ震災前の日常に戻りつつあるところです。
僕が選曲したコンピレイションの今年最初のリリースとなる『音楽のある風景〜食卓を彩るサロン・ジャズ・ヴォーカル』も、今日ついに全国発売になりました。少しでも多くの方に聴いていただけたら嬉しいです。偶然か必然か、音楽を聴いて笑顔になる、というテーマを設けて制作した一枚です。音楽に携わる者として無力を痛感させられる震災でもありましたが、音楽は人を幸せにすることができる、人の心を救うことができる、と僕は信じています。そして素晴らしい音楽は、人間の生活や感情を美しくする、とも。
ナチュラルでグルーヴィーな、いつになく多幸感あふれる選曲となったその内容については、僕と「素晴らしきメランコリーの世界」「Quiet Corner」主宰・山本勇樹がHMVのウェブサイトに寄稿した“橋本徹の『サロン・ジャズ・ヴォーカル』全曲解説〈1〉”をご覧いただければ幸いです。ジョアン・ジルベルト/アントニオ・カルロス・ジョビン/マリーナ・ショウ/シャーデー/ヴィンス・アンドリュース/ギルバート・オサリヴァン/バート・バカラック/セルジオ・メンデス/トニーニョ・オルタ/デイヴ・フリッシュバーグなどの音楽ファン垂涎の傑作カヴァーから、絶品のオリジナル〜スタンダードまで、美しいメロディーと軽やかなスウィングに胸躍り心ときめく至福の80分間をお楽しみいただけると思います。
また、今週マスタリング予定だった続編『音楽のある風景〜寝室でくつろぐサロン・ジャズ・ヴォーカル』も、来週にはすべて編集・入稿を終え、4/21に発売される予定です。こちらもぜひ、ご期待いただければと思っています。

地震の他にも様々なことがあった1か月でしたが、僕がまず思い返すのは、2/26のNujabes一周忌です。昼間は墓前で、Uyama Hirotoとharuka nakamuraがソプラノ・サックスとギターで「Faure」を捧げ、夜はカフェ・アプレミディで偲ぶ会を開きました。まさにレクイエムと言うべきUyama Hirotoの「Homeward Journey」、生前のNujabesもフルートで参加したharuka nakamuraのハイドアウトからの次作に収録される予定の「Lamp」、それに飛び入りで弾き語りしてくれたクラムボンのミトの「Imaginary Folklore」などが、強く印象に残っています(心の痛みがわかり、ポジティヴで芯も強い、音楽の未来を託せる3人だと思います)。翌日すぐにミトくんから、5月リリース予定のソロ作のために、Uyamaくんとnakamuraくんと録音した「When Do I Understand」が届いたのも感激しました(歌詞にも彼のNujabesへの思いがこめられているのです)。カフェ・アプレミディには今も、FJDによるデザインも胸を打つNujabes追悼ポスターが貼られています。
Force Of NatureのKZAが誘ってくれていた3/12の渋谷・BallでのDJパーティーは、地震の翌日ということもあり、5月に延期しました。また改めて日程などをご案内しますので、楽しみにお待ちください。僕がまずかけようと思っていたのはセオ・パリッシュの「Solitary Flight」でした。宇宙まで突き抜けるような果てしないスケールの輝きに満ちたダンス・ミュージック。“Update Free Soul”というコンセプトに相応しいと思ったからです。他にはミスター・フィンガーズの「What About This Love - Dub Version」などの12インチを、レコードバッグに用意していました。ちょうど来日時期と重なったラリー・ハードの1989年は、僕には外れがないのです。
地震直後は、両親が海外旅行中だったので、実家に戻ってTVをつけ続けていたせいか、なかなか音楽を聴く感じにならなかったのですが、そんな自分の気持ちを落ちつけてくれたレコードは、ベン・ワットの『North Marine Drive』でした(ジャケットを見ているだけでも)。そして、ふと夜の首都高速をタクシーで走っているときに浮かんできたオリジナル・ラヴ「流星都市」。節電でいつもより穏やかな夜景に、「Smile 夜の広がりに散って和らいでゆく この気持ち」というフレーズが、どうしようもなく沁みました(翌日になって知ったのですが、タルコフスキーの「惑星ソラリス」の未来都市のシーンに使われた首都高速の映像を合わせた「流星都市」がYouTubeにあって、とても素晴らしいです!)。何となく月明かりを見上げ、小坂忠の同名異曲も頭をよぎりましたが。
3/15はフィッシュマンズの佐藤伸治の命日で、12年前のその日、僕が編集長を務めた最後の「bounce」の校了時に訃報が届き、その場で冥福を祈る記事を差し込んだことを思い出しました。「ポッカリあいた心の穴を少しずつ埋めてゆくんだ」という「POKKA POKKA」の一節が木霊して、自分は音楽に助けられている、という感謝の念をより強くしました。2/20には吉祥寺・キチムで、昨春DJで世話になったソウル・空中キャンプのクルーが来日してイヴェントを開き、フィッシュマンズの魅力に改めて浸かったばかりでした。

地震を通して感じた思いや祈りを音楽で記録しておきたくて、先週は手許にあったCDを使って『福音〜レクイエム』と題した2枚セットのCD-Rも選曲しました。被災された方も、自分も、友だちも、音楽の素晴らしさに慰撫され、優しい気持ちで前を向けるようにという願いをこめて。羅針盤の三日月ジャケの名作にインスパイアされて名づけた『福音』は、Ascaino - Mentaによるカルロス・アギーレの名曲カヴァー「Los Tres Deseos De Siempre」(流れ星にまつわるアルゼンチンの言い伝えをモティーフにした「永遠の3つの願い」)に始まり、星や月や空に心を馳せる曲たちが、甘美にゆっくりと胸の奥深くに沁みていきます。11分におよぶ「会えない人(月)」が個人的にはハイライトと言えるでしょうか。
一方で『レクイエム』は、涙なしには聴けないキャット・パワーのラジオ・ライヴ版を皮切りに、ボブ・ディラン「He Was A Friend Of Mine」の哀切と寂寞が通奏低音として流れるセレクト。セシリー・ノービーによる「ジムノペディ」のメランコリックな女性ジャズ・ヴォーカル・カヴァー、サティの影響色濃いウラディミール・コスマのスコアによるジャン=ジャック・ベネックス作品「DIVA」の挿入曲「Sentimental Walk」とエルヴィス・コステロが捧げた「Almost Blue」が連なるチェット・ベイカーに情趣を震わされ、ニール・ヤング「See The Sky About To Rain」で感情が堰を切り、あふれてしまいます。ニック・ドレイクとロバート・ジョンソン(死生観とブルース)、エリオット・スミスとウィリアム・フィッツシモンズ(新作と彼やジュリー・ドワロンが参加したボブ・ディラン・トリビュートを早く聴きたいです)、リンダ・パーハクスとカレン・ダルトン(どちらもプレフューズ73にサンプリングされた曲です)、アンドレ・メーマリとシネマティック・オーケストラ(共にピアノ&クラシカル・メランコリー)という具合に、各曲が対をなすような構成になっていることも付記しておきましょう。

同じような趣旨のもとに、3/20には渋谷・Bar Musicで「Music Is Nothing But A Prayer」、昨日はUSENで「Prayer For Love And Peace」と冠した選曲を行いました。それぞれアンサンブル・アル・サラームとUyama Hirotoの曲にちなんだ命名です。プライヴェイトの音楽生活も、メモ代わりになっているtwitter(http://twitter.com/Toruhashimoto)を見ると、それらのセレクションと深く結びついていることに気づきます。例えば一昨日の晩は、レナード・コーエンの「Hallelujah」をいろいろなヴァージョンで聴いていました。阪神大震災後の来日公演で、今は亡きジェフ・バックリーが、地震についてのお見舞いとお悔やみのMCの後に、この曲を歌ったのを思い出したからです。『Live At Sin-e』のクライマックスでの歌も本当に素晴らしいですね(他にもボブ・ディランのカヴァーが「If You See Her, Say Hello」と「I Shall Be Released」であることや、ニーナ・シモンやヴァン・モリソンといったレパートリーまで、僕には最高のライヴ盤です)。「Hallelujah」はジョン・ケイルやルーファス・ウェインライトも大好きで、共に「usen for Cafe Apres-midi」スプリング・セレクションの土曜夜の時間帯で大切な役割を果たしてもらっています。
その名も『土曜日の夜』(The Heart Of Saturday Night)というアルバムもお馴染みのトム・ウェイツも、そこでは活躍しています。今年いちばん大きな満月がきれいだった先週末の深夜、久しぶりに聴いたファーストの「Grapefruit Moon」(やっぱり名曲ですね)とセカンドの「Drunk On The Moon」(「usen for Cafe Apres-midi」ではスラップ・ハッピーの「Slow Moon's Rose」と抜群の相性を示しました)。酔いどれ詩人のロマンティシズム、彼の曲名に倣って「ミッドナイト・ララバイ」と呼びたくなるピアノ弾き語り的な雰囲気がいいですね。
さらに真夜中によく聴いているアルバムで特筆したいのは、レッド・ハウス・ペインターズからサン・キル・ムーンへと続くマーク・コズレクのセピア色の哀愁漂う諸作。そしてサン・キル・ムーンの『April』でも存在感を示すボニー・プリンス・ビリーの『I See A Darkness』(音のロード・ムーヴィーとでも言うべき次作『Ease Down The Road』も夕暮れどきの愛聴盤ですが)。どれも男の世界で、ジャケットもよく似ているモノクロームの名盤。90年代以降、クラブ・ミュージックやジャズを聴くのに忙しすぎた僕は、最近になってやっと、アメリカン・ゴシックの深い夜をじっくりと再訪できているのかもしれません。「Music Is Nothing But A Prayer」では、レッド・ハウス・ペインターズの“Bigger Smile From Tokyo”と歌い出される「Cruiser」や、まるでニール・ヤングのようなポール・マッカートニー&ザ・ウィングス「心のラヴ・ソング」のカヴァーをかけそびれてしまいましたが。

その日かけたかったな、と後で思った音楽は、他にもいくつか挙げることができます。マイク・ウエストブルック『Love Songs』、カーティス・メイフィールド『New World Order』、フラヴィオ・ヴェントゥリーニ『Nascente』……あるいはユーミンの『ひこうき雲』。不意に「ひこうき雲」のことを考えたのは、ジュディー・シルの「The Kiss」をかけているときでした。胸が詰まる美しさが共通する、と連想したのです。僕は最近、ジュディー・シルのセカンド『Heart Food』を手にすることが多く(雨の日と月曜日は弾き語りの『Live In London』ですが)、クラブ・プレイすることもある「Soldier Of The Heart」を始め、彼女の歌声にはゴスペル(福音)を強く感じます。Bar Musicでは「The Kiss」から、ライ・クーダー『流れ者の物語』(思わず旅に出たくなるジャケットのポートレイトがたまらなく好きです)の「Dark End Of The Street」へつないで、一緒にいた渡辺亨さんから「名曲だね」と声がかかったのも嬉しかったです。
街角クラブのメンバー、ミナスのスナフキンことフラヴィオ・ヴェントゥリーニのデビュー作『Nascente』(誕生)は、この1か月の間、最もよく聴いたアルバムのひとつでもあります。というのも、Nujabesの墓参りのときに、この作品の素晴らしさについてUyama Hirotoと語り合ったばかりだったから。ミルトン・ナシメント&トニーニョ・オルタも参加し、ヴァイオリンの美しい音色にも魅せられる、まさにミナスNo.1の至宝ですね。「Music Is Nothing But A Prayer」ではエンディング近くで、表題曲のメロディーの美しさが際立つ、アンドレ・メーマリのエグベルト・ジスモンチ&エルメート・パスコアル集に続く新作に入るピアノ・ヴァージョンを流しました。90年代に入ってからの『Noites Com Sol』で聴ける「Clube Da Esquina II」なども、ややAOR寄りのサウンドながらミナス音楽好きにはたまらないはずです。そうそう、カルロス・アギーレを思わせるたおやかな瞬間もあるアルゼンチンSSWのホープ、フリアン・ヴェネガスの心地よい風のようなアコースティック・グルーヴは、ミナスの空気感を愛する方にもぜひ聴いてもらいたい新譜ですね。

思えば地震当日は、スコット・アッペルの命日でもあって、彼やニック・ドレイクに通じる内省的な音楽を、数日前からひたすら聴いていたのも思い起こされます。前日には名古屋から友人の高橋孝治が、ニック・ドレイクへのオマージュ2枚をひどく気に入っている僕にスコット・アッペルのファースト『Glassfinger』をプレゼントしてくれたのでした。瑞々しいギターのつづれおり、という趣きで、アルバムのラスト曲「Leaving」が切ない夕映えに沁みて、彼のMySpaceで聴けると教わった、Laurieという女性との歌入りテイクにも心打たれたのです。
もちろんスコット・アッペルとニック・ドレイク以外にも、こうしたテイストで愛聴した曲は枚挙に暇がありません。『福音〜レクイエム』「Music Is Nothing But A Prayer」「Prayer For Love And Peace」にも登場したデヴィッド・ルイス「On The Day Like Today」/トライ・ミー・バイシクル「April Sky」/クリス・ワイズマン「Round」/ケリー・グッドウィン「Hymns」/バッドリー・ドローン・ボーイ「Is There Nothing We Could Do」などは、twitterにも記述が残っています。以前サインをもらって感激したベス・オートンとテリー・キャリアーの共演12インチ、ニック・ドレイク「River Man」の歌詞からライラック・タイムというバンド名をとったスティーヴン・ダフィーのプリンスのカヴァー「Raspberry Beret」と初期のソロ・ヒット「Kiss Me」のアコースティック・メドレー、リイシューがヌメロからというのも嬉しいキャサリン・ハウの小春日和のブリティッシュ・フォーク、といったところも。
しかし何と言っても、アーティスト単位ではエリオット・スミスとアントニー&ザ・ジョンソンズに尽きるでしょう。共に自分流のベスト盤を編んで繰り返し聴いていますが、前者は「Between The Bars」(Taylor Eigstiのジャズ・ヴァージョンも)/「Say Yes」/「Angeles」/「Waltz」、後者は「Hope There's Someone」/「Her Eyes Are Underneath The Ground」/ジョン・レノン「Imagine」/ボブ・ディラン「Pressing On」といった楽曲に、特に惹かれます。彼らを聴いていると行き着く先がロバート・ワイアット(やはり自分流のベスト盤で、シック「At Last I Am Free」に始まり、「Sea Song」「Moon In June」「O Caroline」と連なり、モンキーズ「I'm A Believer」やエルヴィス・コステロ「Shipbuilding」まで、というセレクトです)であることも、必然なのかもしれませんね。やはり声の力、ということでしょうか。

それからもうひとつ、大事なことを。今バックに流れている2007年にコンパイルしたスティープルチェイス盤『Piano Trio Supreme 〜 Prayer For Peace』もそうですが、昨年末に発表したコンピ『Brother Where Are You』は、この苦難に立ち向かう祈りの季節のために作ったのかな、と思うことがあります。フレディー・コールのフラッグ曲、ファラオ・サンダースの「Save Our Children」(ギル・スコット・ヘロンの「Save The Children」も入れられたらよかったのですが)、ビルド・アン・アークの「This Prayer For The Whole World」、アンサンブル・アル・サラーム「Peace」、サン・ラ「Springtime Again」……。その音楽にこめられたメッセージを、今こそかみしめたいと思います。中でも僕がこの10日間、いちばんプレイしているのはアーサー・ラッセルの「Love Comes Back」(涙が出そうになるときがあります)。アーサー・ラッセルはアルバム単位では『Calling Out Of Context』をずっと愛聴していて、細野晴臣ファンの方などにも届くべき、と勝手に使命感に燃えたりもしています。
クラブ系の新譜では、相変わらず中毒性の高いジェイムス・ブレイクに引き込まれていますが、トライブ・コールド・クエスト好きとして注目していたゴーストポエットがブラウンズウッドから出した『Peanut Butter Blues & Melanchory Jam』も、「ポスト・ダブ・ステップのトリッキー」という呼び声に違わずクール&ダビー&スモーキーでしたね。タイトルもいいですが、何よりもジャケットがジェイムス・ブレイク似なことに驚かされました。偶然でしょうが、現在のロンドンに漂っているだろうこういう気分、僕も共感できます。
それでは最後にお知らせを。3/27のカフェ・アプレミディでのサンデイ・アフタヌーン・パーティー「harmony」は、被災者の方へのできるかぎりの配慮を心がけながら、予定通り開催させていただくことになりました。僕が大好きなレギュラーDJ陣に加え、今回はゲストとして活動20周年のミスター・バレアリック、Max Essaをロンドンから迎えますので、楽しみにしてくださっていた方も多いでしょう。僕は先日、このイヴェントで前からかけようと思っていたパル・ジョーイfeat.ドリームハウスの「Harmony」(1992年にTokyo FMで放送していた「Suburbia's Party」でも使っていた、ニューヨークの夜の音がする懐かしい12インチです!)をレコード棚の片隅に発見したばかりで、モティヴェイションを高めています。いつも通り、この後にフライヤー原稿と画像データも掲載させていただきますので、吉本宏による『音楽のある風景〜食卓を彩るサロン・ジャズ・ヴォーカル』のライナーに続いて、どうぞお読みください。

『音楽のある風景〜食卓を彩るサロン・ジャズ・ヴォーカル』

“ポン”と栓を開ける音が響くと、リヴィングで談笑していた友人たちから、にわかに歓声があがった。北欧のダイニング・テーブルを囲み、カリフォルニア産のスパークリング・ワイン、ドメーヌ・シャンドンをグラスに注ぐ。香ばしく煎られたカリフォルニアの殻つきアーモンドとの相性もいい。テーブルには、アルゼンチンのペイストリー、エンパナーダや、メキシコのライムのスープ、ソパ・デ・リマ、セネガルのピーナッツ・ソースを使った鶏肉のシチューのマフェや、深紅色をしたウクライナのボルシチなど、色鮮やかな世界の料理が並ぶ。イタリア、ピエモンテ産のモンキエロ・カルボーネの芳醇な香味の赤ワインとともに和やかなディナー・タイムが始まる。友人たちのインティメイトな笑顔とおしゃべりが、ペンダント・ライトの淡い灯りに照らされたダイニングを彩り、英国製のクオードのブックシェルフ・スピーカーからは、軽やかでスウィンギーなサロン・ジャズ・ヴォーカルが流れてくる。

木もれ陽のようなピアノの音色が春の訪れを告げるサンフランシスコのシンガー、パメラ・ジョイの「It Might As Well Be Spring」にダイニングの雰囲気がふわりと華やぐ。イギリスのサリー・ドハーティーは、ジョアン・ジルベルトも歌った、アリ・バホーゾ作の「E Luxo So」を鳥のさえずりのようなチャーミングな歌声で聴かせ、アトランタのシュー・マシューズは、アントニオ・カルロス・ジョビンとヴィニシウス・ヂ・モライスが初めて共作した歌の英詞カヴァー「Someone To Light Up My Life」を草原に吹く風のように伸びやかな歌声で響かせる。スペインのアンナ・ルナはギルバート・オサリヴァンの名曲「Alone Again」を優しさと切なさを込めて表現し、シカゴのシンガー、アリソン・ルーブルはバート・バカラックの「Always Something There To Remind Me」を上質感と気品を漂わせて歌い上げる。ブラジルのフェルナンダ・クーニャの歌うトニーニョ・オルタの「Aqui Oh」は、南米の太陽のようにダイニングを暖かな光で包みこみ、エレピの音色とひんやりとしたキュートな歌声の調和が美しいベティー・リーの「The Coffee Song」は、香りのよい中米のコーヒーのような爽やかな酸味を感じさせる。

美しいカヴァー曲が並び、時折、友人たちは楽曲についての話を始め、音楽談義に花を咲かせる。食後のデザートに、ヴァローナのクーベルチュール・チョコレートをつかったガトー・ショコラと、白磁のカップに注がれたコーヒーが運ばれてくる。ディナーのとっておきの締めくくりにと、パナマのエスメラルダ農園から届けられた希少なゲイシャ種のスペシャリティ・コーヒーから、まるで華やかな果実のような芳しい香りが漂ってきた。

吉本宏

「harmony」
3/27(日)18時から24時までカフェ・アプレミディにて入場無料!
フリー・ソウルのビートをアップデイトし、カフェのインティメイトな空間にダンス・ミュージックを届けるDJパーティー「harmony」。2011年春、おかげさまで第10回を迎えることになりました。今回は、スペシャル・ゲストに、Max Essa! ニュー・ディスコ/バレアリック・シーンの礎を築いたMax Essaが「harmony」にやってきます。春の夜の夢のようなひとときを、一緒に、楽しみましょう!(Takahiro Haraguchi)

harmony classics
James Blake / James Blake
「harmony」でデトロイト・ビート・ダウン中心にプレイしているとき、ロウ・ビートでも踊ってもらえるように、といつも思うのだが、そんなところに待ち望んだアルバムを届けてくれたブライテスト・ホープ。イギリスならではのサウンドだが、ポスト・ダブ・ステップ云々より、最新型のブルー・アイド・ソウルとして聴くのが正解。ファイストのカヴァーが話題を呼んだが、「The Wilhelm Scream」などもカッコ良い。(橋本徹)

Arthur's Landing / Arthur's Landing
80年代のニューヨークで活躍した、現代音楽とディスコを実験精神旺盛にミクスチャーし続けた鬼才、アーサー・ラッセル。その死からおよそ20年、トリビュート・バンド、Arthur's Landingのアルバムが遂に発表されたので、早速ピックアップ! 過去と現代をつなぐこの音、今まさに聴いてほしいアルバム!(haraguchic)

Cory Daye / Single Again
Dr. Buzzard's Original Savannah BandのヴォーカルCory Dayeのソロ・アルバムに収録の一曲。Odysseyのオリジナルをトロピカルかつゴージャスにカヴァー。キュートなヴォーカルにビッグバンド風なアレンジがフロアを華やかに彩ります。(NARU)

Crue-L Grand Orchestra / Dancing All Night Long (Sound Of Gold Mix)
一度聴いたら忘れられないメロディー……この曲との出逢いは約一週間前。某レコードショップで流れていたのを耳にして一気に惚れ込みました。まるで歌っているかのようなPianoとSaxの音色。12分にも及ぶドラマティックな展開に圧倒されます!(YUJI)

Toro Y Moi / New Beat
チルウェイヴ・ムーヴメントの中から生まれたソフト・ロックとディスコのハイブリッド。ときどきStereolab。Roisin Murphy「Let Me Know」を思わせるフレーズもキャッチー。ナイーヴな青いヴォーカルは、森ガールの心に届くのか。2011年リリースのセカンドに収録。(Takahiro Haraguchi)

Max Essa / One Hundred Times
今回のスペシャル・ゲスト、Max Essa自身のレーベルJansen Jardinから極上の一枚。この曲だけでなく最高のDisco、House Musicを創造し続けるMax Essa。その彼自身がホストを務める日本でのパーティー「Higher Ground」が4月15日22時より青山・LOOPでスタートします。ぜひ遊びに来てください! そして、まず「harmony」でお会いしましょう!

3/25追記:3月を振り返ると、コリーヌ・ベイリー・レイとホワイテスト・ボーイ・アライヴのライヴを観逃したことが少し心残りですが、自分にしては映画をいくつかDVDやVHSで観直したことが、深く胸に刻まれています。どれも学生時代、80年代後半に観た作品で、ジャン=ジャック・ベネックス「DIVA」「ベティ・ブルー」、ジム・ジャームッシュ「パーマネント・バケーション」「ストレンジャー・ザン・パラダイス」、ジョン・セイルズ「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」「ベイビー・イッツ・ユー」、ブルース・ウェーバー「レッツ・ゲット・ロスト」。リアルタイムで経験した人には、あの時代を強く感じさせるラインアップだと思います。
「DIVA」のカタラーニのオペラ「ラ・ワリー」の崇高な響きと「波を止めること」を夢みる男に魅了され、完全版で観た「ベティ・ブルー」の鮮烈さに胸をつかまれ、「パーマネント・バケーション」では大好きだったチャーリー・パーカーで踊るシーンに溜飲を下げ、「ストレンジャー・ザン・パラダイス」(スクリーミン・ジェイ・ホーキンスを愛するヒロインが自分の好みのタイプだと25年越しに気づきました)の飄々とクールなタッチを久しぶりに味わう。そしてあれほど好きだった「ブラザー・フロム・アナザー・プラネット」は、公開当時ディー・ディー・ブリッジウォーター出演のもつ大きな意義を観すごしていたなんて。「ベイビー・イッツ・ユー」はやはり胸疼く青春映画で、甘酸っぱく切ない気分を満喫して、シレルズやビートルズでお馴染みのタイトル曲のニック・ロウ&エルヴィス・コステロによる12インチまで引っ張り出してしまいました。
そういえば、コステロがパーソナリティーを務める音楽番組「スペクタクル」のDVDボックスは、まだ手に入れていません。ポリスとの「Walking On The Moon」、ルー・リードとの「Perfect Day」、スモーキー・ロビンソンとの「The Tracks Of My Tears」(昔ライヴで観た、コステロ初期の名バラード「Alison」とのメドレーが忘れられません)といったセッションや、ジェイムス・テイラーやルーファス・ウェインライトとの対話も収められているそうなので、僕が買わなくて誰が買う、と思っているのですが。
大学生の頃の追体験という意味でもうひとつのトピックは、XTCの『Skylarking』ですね。春になったら聴こうと昨秋買っておいた、幻のオリジナル・ジャケット45回転2枚組アナログ。より80年代的でない、つまり僕好みの音質でしたが、あの頃は本当に生涯のアルバムと信じていました(その後、世界は広い、と知ることになるのですが)。話題を呼んだアンディー・パートリッジとトッド・ラングレンの衝突も今では微笑ましく感じるほどで、学生のとき初めて音楽誌から原稿依頼されたのがXTCについてだったことも、懐かしく思い出したりしました。

今月も例によって、本はあまり読んでいないのですが、昨夜やっと三島由紀夫の「美しい星」を再読し始めました。地震が起きて原発をめぐる問題が表面化してすぐの頃から、人間や水爆の観念的な捉え方など、今こそ読み直すべき示唆に富んでいるはず、と感じていたのですが、ピチカート・ファイヴの「美しい星」や田島貴男によるそのカヴァーを聴いたり、読み慣れたカート・ヴォネガットの「スローターハウス5」のページを繰ったりしながら、やりすごしていたのです。
その読書のBGMは、やはりと言うべきか、チェット・ベイカー。ブルース・ウェーバーが撮った「レッツ・ゲット・ロスト」のサントラ盤や、スティープルチェイス音源で綴ったもうひとつの「レッツ・ゲット・ロスト」というイメージで僕が2007年に編んだ『Chet Baker Supreme 〜 Moonlight In Copenhagen』。そしてジャズ・レヴューでは決して高く評価されることのない、青白く揺れる炎のような危うさと儚さ、淡い無常感とかすかに甘美な倦怠感を宿した、チェット晩年のメランコリックな作品群。こういう音楽に惹かれるとき、風評ほど嫌いなものはない、風評に惑わされるほどつまらないことはない、と改めて思うのです。
ひと息つき、星空を眺め、気を取り戻して、『Love Song For My Heart』にもかつて選んだカサンドラ・ウィルソンの「Time After Time」(そう、シンディ・ローパーの行動、とても素敵でしたね)を聴きながら、昨日はベッドにつきました。地平線が美しく染まる夕暮れや夜明けのまどろみの友、ハロルド・バッド&マリオン・ブラウンのスピリチュアル・アンビエント『The Pavilion Of Dreams』が流れると、眠りはすぐにやってきました。
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