午後の光の中で『Chill-Out Mellow Beats 〜 Harmonie du soir』を聴きながらソファ・ベッドでぼんやりしていたら、いつの間にか昼寝をしてしまい、青い珊瑚礁に囲まれた小さな島で、グラースを飲って海を眺めている夢を見た。リーフで砕ける波しぶきのひとつひとつが虹色のビー玉のように光ってきれいだった。まるでスロウ・モーションの映像のように。
アプレミディに入荷してきたばかりの『Lui』(全国リリースは8/5です)も、そんな美しい光景をイメージさせてくれる夏の輝きに満ちたアルバムだ。甘い潮の香りと波のきらめき。「Suburbia Suite; Evergreen Review」ではアームチェア・トラヴェルのための名盤の象徴として大きく紹介した。やはりCD化を待望されていたのだろう、予約段階でHMVのワールド・ミュージック部門で1位、Amazonのハワイ音楽部門で2位を記録しているという。おかげで限定プレス1,000枚が初回オーダーで足りなくなってしまい、200枚を確保してもらっていたアプレミディ分を100枚に減らさざるをえなくなってしまった。
僕は今日、この夏すでに3度目となる葉山の海を訪れた。太陽の季節、いつになく波も穏やかで水の色も澄み、小さな魚の影が海底に揺れているのが美しく見えた。それでも僕が最も愛しているのは夕暮れの海辺の風景だ。ひとり「森戸の夕照」を眺めていると、石碑に刻まれた「夢はとおく 白い帆にのって 消えていく 消えていく 水のかなたに」という言葉が沁みてくる。切ない感傷に誘われ(防波堤の先で小さな蟹に話しかけている自分に気づいたときは参ったが)音楽が浮かんでくることも多い。先日は高橋孝治の家で、葉山の海で聴くためのCD-Rも製作してきた。シルヴァー・シーズの「We'll Go Walking」、トライ・ミー・バイシクルの「The Sodium Lights」(だんだんとチェット・ベイカーとブライアン・ウィルソンに捧げるような思いが募ってきます)、アルバム・リーフの「Wishful Thinking」、さらに最近リイシューされたローデリウスの「Wenn Der Sudwind Weht」……。僕の気分をわかってもらえるだろうか。
海に出かける前は、運転してくれる友だちのユズルと駒沢公園西口で待ち合わせたりしている。少し早く着いて公園を散策していると、懐かしい気持ちに胸を締めつけられてしまう。僕は中学校への通学路のほとんどが駒沢公園だった(小学校への通学路はひたすら駒沢公園通りでした)。小学生の頃よく野球をした、僕らが「くもの巣」と呼んでいたグラウンドは、「ジャブジャブ池」と名を変え、子供たちの水浴び場になっている。僕が4歳のとき父とキャッチボールしている写真が残っている駒沢球場前の広場では、中学からの帰り道によく遊んだものだが、今ではスケート・ランプができている。どちらの脇の芝生も、30年前は、いつも僕が素振りをしていたところだけ土になっていた。そんなとりとめのない追想に耽っているうちに胸が詰まって、僕はそろそろこの街に戻ろうかと考えたりする。
少し感傷的になってしまった。それではアプレミディ・レコーズにまつわる情報をお伝えしよう。カルロス・アギーレ・グルーポのファースト・アルバムの日本盤も、初回プレス分800枚はすべてなくなり、新たにパメラ・ヴィジャラーサさんが描いた水彩画がアルゼンチンから届いたところ。正直な話、予想をはるかに越える反響で嬉しい。ハンドメイドのアートワークの効果もあるのだろうか、「特に素敵な女性のお客さまが買ってくださっている」とHMV渋谷・河野洋志氏が満面の笑顔で教えてくれた。アプレミディ・レコーズのCDはどれも、「所有する価値のあるもの」をめざしている。
『Chill-Out Mellow Beats 〜 Harmonie du soir』については、以前このページで「北見のコリーヌ・ベイリー・レイ」と紹介した15歳のSatoちゃんからいただいた手紙に、とても心動かされるピュアな言葉が綴られていた──「いちばん最初の子供たちや人々の声、その後につづく音で、命のはじまりの空や風や土や星が、長い長い月日を経てつくりだされた地球の上で絶え間なく進む現代の人間と、変わらない核にあるものを感じました。(中略)心ふるえるほど感動し、自然が創りだした色に染まるすべての命を聴かせていただく度、新鮮に、そして深く響きます。日の出の朝の力強さ、月光のやわらかい凛とした光、雨上がりの雲間に抜けるひとすじの光、町を囲む森……すべての鼓動を、また改めて感じました」。
それからもうひとつ、このところ僕の音楽仲間で話題になっている『Chill-Out Mellow Beats 〜 Harmonie du soir』絡みのトピックを。あの、僕らを惹きつけてやまないジュリアン・ダイン「Fallin' Down」〈Mitsu The Beats Remix〉のインスピレイションの源は何だろうと、初めて聴いたときからずっと気になっていたのだが、意外なことに「usen for Cafe Apres-midi」の本多ディレクターの発言を機にオリジナル・ラヴの「接吻」を思い浮かべて膝を打ってしまったのだ(Mitsuくん、どうでしょう?)。それにしても本当にこのトラックは(メロウなギターやピアノはもちろん、思わず“Fallin' Down”と「接吻」を歌い出したくなる歌詞も)夏の夜の気だるく甘美な情感を見事に表現した名作ですね。
それでは今回はこの辺で。8/6(金)はカフェ・アプレミディでのDJパーティー「Lots Of Lovin'」でお会いしましょう。とても楽しいヴァイブに満ちあふれた一夜になることをお約束します。僕も出演する8/14(土)代官山・UNITでのNujabes追悼イヴェント「Eternal Soul」は、残念ながらチケットが売り切れてしまったようですね。8/13(金)には「usen for Cafe Apres-midi」の選曲家が集まって、この夏のアプレミディ・レコーズのCD3枚のリリース記念パーティーも開きますので、ぜひ楽しみにしていてください!
「Lots Of Lovin'」
8/6(金)22時から翌5時までカフェ・アプレミディにて¥1,000(1ドリンク+レアチーズケーキ+先着50名様スペシャルCD-R)
奇跡の顔合わせが遂に実現しました! みんなが好きなキラキラした90年代の雰囲気を、音楽好きな人にたくさんの愛と歴史的な一夜を、すばらしい音楽と共に!(ユズル)
DJ's Choice for Lots Of Lovin'
R. Kelly / Summer Bunnies (Summer Bunnies Contest Extended Remix)
サマータイム♪ サマータイム♪ 儚くも愛しいアリーヤのコーラス。スピナーズ「It's A Shame」の切なくも快いギター・ループ。すべてが輝いていた1994年夏の記憶がよみがえるR.ケリー奇跡のリミックスを、この夏「Lots Of Lovin'」で。(橋本徹)
Dubsensemania / Natty Love
西の空を曇らせる急な夕立のように君は通りすぎてしまった。雨上がりの空にかかるおぼろげな虹。ほろ苦い夏の思い出をつくるなら、Dubsensemaniaの「Natty Love」が流れる「Lots Of Lovin'」のダンス・ホールにお越しください。(吉本宏)
Souls Of Mischief / 93'til Infinity
西海岸オークランド出身のSOULS OF MISCHIEFの名曲、「93'til Infinity」! 1993年当時の西海岸といえばG-FUNKが勢いづいていた時代。そんな中、もはやギャングスタ・ラップからかけ離れたような牧歌的なサウンドに、レイドバックしたライム、当時はちょい異端に感じた人も多いはず。自分的には4SEASONいける名曲! 一人ドライヴなんてときにも最適ですよ(u.u)。ちょっとした考えごとやたそがれたときには特にMUSTなHIPHOP MUSIC♪ Check It Out!(DJ HIGH-D)
Keyco / 夢で逢えたら (DRY & HEAVY Remix)
日本独特の湿り気たっぷりの真夏には、日本産ラヴァーズ・ロックがよく合います。Keycoのゆらゆらとはかなくただよう歌声に、DRY & HEAVYによるひんやりとしたダブ処理を施したこの曲は、僕にとっての最高のサマー・ソング。明るく陽気な曲もいいけど、こんな切ない曲を聴きながら夏の夜を過ごすのも、毎年悪くないな、なんて思っています。(haraguchic)
The Spinners / I'll Be Around
「Lots Of Lovin'」でも何気に登場回数が多いのがこの曲。朝方に聴くのもよろし、夕暮れ時に聴くもよろしな、大概のシチュエイションにしっくり馴染んでしまう素敵な曲!!! 軽やかなギターとリズミカルな太鼓の音が印象的で、イントロから吸い寄せられるように曲に入り込んでしまいます。それと、彼らのライヴ・パフォーマンスも必見! ぜひYouTubeなんかでLIVE映像も見てみて下さい。目でも耳でも満足させてくれます♪(DJ CHIEMI)
Terry Ronald / What The Child Needs (Soul City Love Theme Original 12")
暑い夏の夜、仲間たちと旨い酒を交わし、この曲を聴きながら体を揺らしていたい! 美しいピアノ、疾走感あるストリングスにこの時代ならではのギター・カッティング、ベース・ライン、気持ちよさげな歌声、ところどころ入る可愛らしい子供の声。UKの音は音楽的な幅を広げてくれ、そして衝撃を与えてくれた。(ユズル)
8/4追記:先月から何度も、44歳で死んだフィッツジェラルドを想いながら、ひりひりするような気持ちで「グレート・ギャツビー」を読んでいる。自分が「グレート・ギャツビー」にこれほど感情移入するようになるとは、初めて読んだ学生時代には想像できなかった。読むというより、読んでしまう、という感じなのだ。しかも繰り返し、憑かれたように。
再追記:今週の口ずさみソングNo.1は、どういうわけか「今夜はブギーバック」(先週は「勝手にしやがれ」だったのに)。心変わりの相手は僕に決めなよ、と麗しの仔猫ちゃんに酒を飲まずに叫べる日は来るのか。