サッカー・ワールドカップはスペイン優勝、オランダ準優勝と僕が望んだ結果になり嬉しい限り。日本チームの健闘は讃えたいが、僕は(勝敗を怖れない)美しい攻撃サッカーへのこだわりを支持する。人生も同じかな、と思うから。
先週末は関西へ出かけてきた。梅雨の合い間の天気のよい土曜の午後、姫路・的形のヨット・ハーバーに面した
「HUMMOCK Cafe」で心地よい時間をすごした。リースリングの白ワインに、坊勢ダコのパテや鶏のコンフィのホワイトソース、それにトマトのロールケーキと自家焙煎のタンザニア・コーヒー(苦味が好きなのです)。音楽はやはり『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』を流してくれていた。店には「Suburbia Suite」や『音楽のある風景』4部作が飾られ、テーブルの棚には「relax」のアプレミディやフリー・ソウルの特集号も置かれている。夕暮れに合わせて防波堤の先まで足をのばし、いくつか写真も撮った。
夜は神戸に戻って、僕の友人・金子修一の店
「haus」の10周年記念パーティー。とても楽しく、温かい笑顔にあふれたイヴェントだった。物との出会い、人との出会いの物語を大切にする、この素敵な店のアニヴァーサリーに相応しい、心が通い合う瞬間が何度もあった。中でも「モン・パリ」のミシェル・ルグラン「My Baby」から「ジェラシー」のアルマンド・トロヴァヨーリ「Sei Mesi Di Felicita」(月一度の幸せ)への、金子修一と僕のDJリレーは、パーティーのハイライトだったと思う(どちらも僕には特別な思いと思い出があるレコードだ)。その後はあまりに楽しすぎたのか、記憶と携帯電話を失くしてしまい、皆さんをお騒がせして恐縮だったが。
翌日は極度の二日酔いの中、「haus diningroom」でまぜまぜご飯のランチ。僕はもう10年近く前、この店でこのメニューを食べて外に出たところを、向かいのビルの窓から金子修一に声をかけられ、彼と知り合いになったのだ。歩いて30秒かからない「ディスク・デシネ」に寄って、前夜ずいぶん迷惑をかけたはずのデシネ・クルーに挨拶した後、その金子修一の会社「D.E.F. COMPANY」が営む3軒をまわる。神戸・海岸通がこれほど魅力的な街になったのは、彼らの功績のひとつだろう。帰京後、「D.E.F. COMPANY」の設立から15年を振り返った本「DIARY OF 15 YEARS」を読んでいてそんなことを思い、熱い何かがこみ上げた。「HUMMOCK Cafe」8周年の小冊子と同じように、忘れかけていた大切なことを思い出させてくれる、かけがえのない一冊だ。素朴な言葉に宿る強い信念のようなものに心打たれる。僕はその本と、残念ながらもうすぐ閉店してしまうという「Vivo, Va Bookstore」で買ってきた串田孫一の古書「雨あがりの朝」を、何となく枕元に飾ってみた。
神戸ではもうひとつ、素晴らしい店に立ち寄った。前の晩には一緒にDJをした大垣徹也くんが代表を務める、北欧アンティークの生活雑貨を扱い、北欧の雰囲気を味わえるカフェも併設した
「markka」。特に僕の好きなアラビア社の食器が大充実で、グスタフスベリやリンドベリの作品群がどれだけ自分の目に幸福を与えてくれるかも再認識した。フィンランドで買いつけてきたというマリメッコのヴィンテージのテキスタイルを使ったポーチと、ギフト・パッケージの箱とリボンが洒落ていて思わず惹かれたクッキーの詰め合わせをおみやげに買った。
日曜の夜は、名古屋に住むマイ・オールド・スポート、高橋孝治を訪ね、いつものように酒と音楽(と人生訓)を満喫し、月曜朝の新幹線で東京に帰ってきた。今回の旅のお供はスコット・フィッツジェラルドの美しすぎる文章だった。ギャツビーのデイジーへ抱いた気持ちに共感を覚えながら、小雨の品川駅を降りた。
渋谷に戻ってくると吉報が届いていた。アルゼンチンのパメラ・ヴィジャラーサさん手描きの水彩画800枚が、美しい装幀にくるまれてスペイン経由でようやく到着したのだ。この素晴らしい(一枚ずつ全く別の)アートが封入されるカルロス・アギーレのファースト・アルバムは、晴れて7/17アプレミディ先行入荷、7/22全国発売と決定。本当にきれいな作品なので、このページにその一部を写真掲載しておこう。待ったかいがあった、と心から思う。
そして昨晩は、やはり7/17アプレミディ先行入荷、7/22全国発売となる僕の最新選曲コンピ『Chill-Out Mellow Beats 〜 Harmonie du soir』(夕べのしらべ)についての座談会だった。“山ブラ”会長・石郷岡学さんからいただいた銘酒・山形正宗から、沖縄のマサが贈ってくれた極上の宮古島マンゴーまで、舌に至福をもたらしてくれる豊潤かつ芳醇な絶品が会話を彩ってくれたその模様は、来週にはHMVのホームページに掲載される予定なので楽しみにしてほしい。昨夏の『Mellow Beats, Friends & Lovers』から今春の『素晴らしきメランコリーのアルゼンチン』までのこの一年間の感情の流れの集大成、といった大きな感慨さえ抱くそのCDについては、引き続き[web shop]のページに詳しく書くが、200枚を越えた自分のコンピレイションの中でも(自分らしいという意味で)代表作になると自負しているその内容をいち早くお伝えしたいので、曲目表と吉本宏がドビュッシー&ボードレールをモティーフに書いてくれたライナーを、この後に掲げておく。
『Chill-Out Mellow Beats 〜 Harmonie du soir』
01. San Solomon / Balmorhea
02. All Loved Out〈Ilu 'Ife (Love Drum)〉/ Ten City
03. Goddess Of A New Dawn〈Acroostic Version〉/ The Bayara Citizens
04. Mother Nature / Joaquin 'Joe' Claussell
05. Fix The Stars / Girl With The Gun
06. The River / Marz
07. Sun Valley / Rickard Javerling
08. Moon Child / Pharoah Sanders
09. Drrrunk / Pascal Schafer
10. The Prayer〈Acroostic Version〉/ Jephte Guillaume
11. Only The Initials... CM / Funky DL
12. I Lost My Suitcase In San Marino / Dadamnphreaknoizphunk
13. Fallin' Down〈Mitsu The Beats Remix〉/ Julien Dyne feat. Parks
14. Message To The Architects Pt.1 / Rise
15. Short Description Of Wishes / 17 Pictures
16. Emotion / Mia Doi Todd With Andres Renteria
17. One Dance / Don Cherry & Latif Kahn
18. Improvisation Day 2 / Build An Ark
クロード・ドビュッシーは、1889年にそれまで影響を受けていた後期ロマン派のドイツの作曲家ワーグナーの重厚なワーグナー至上主義との決別を図り、その年のパリ万国博覧会で接したインドネシアのガムラン音楽や日本の浮世絵などの東洋芸術に触発され、その後、視覚的なイメージを音で表現するような印象主義と呼ばれる独自の作風を確立していく。
ドビュッシーにとっての転換期にあたるこの時期に残された作品が、詩人シャルル・ボードレールの『ボードレールの五つの詩』に曲をつけた歌曲だった。ボードレールは『音楽』という詩の中で、「音楽はしばしば私を奪う、まるで海のように」と歌い、『火箭』の中で「音楽は天を穿つ」という言葉を残し、彼もまた、言葉にできない“音楽”をこよなく愛し、折にふれて“音楽”そのものをイメージし表現しようとした。
花々はみな香炉のごとく香りを放つ
音楽と香りはこの夕べの中に舞う
メランコリーなワルツ、物憂げな眩暈
ドビュッシーによる歌曲『ボードレールの五つの詩』の中の一篇「夕べのしらべ/Harmonie du soir」は、静かなピアノの旋律に、まるで夕暮れに咲く甘美な花々がいっせいに匂い立つような艶やかな詩が美しく溶け込んでいる。『Chill-Out Mellow Beats 〜 Harmonie du soir』は、その「夕べのしらべ」をタイトルに冠し、音のイマジネイションとともに世界を旅するようにメディテイティヴな音楽を集めている。
テキサスの広々とした大地の陽だまりに穏やかな風を呼ぶバルモレイの「San Solomon」から、澄みわたるピアノと弦の響きに導かれて鮮やかなグルーヴを宇宙に解き放つブルックリンのジョー・クラウゼルのサウンドへ流れ、さらにイタリアのガール・ウィズ・ザ・ガンの「Fix The Stars」の光の粒子の反復へと、音は美しく連なっていく。ドイツのメルツの儚い歌声はゆっくりと河を渡り、スウェーデンのリカード・イェヴェーリングは夕暮れの渓谷に太陽の残り香を輝かせ、やがてファラオ・サンダースによる「Moon Child」の慈しみに満ちた歌声が月明かりに優しく照らされる。夕闇の瞑想を思わせるミア・ドイ・トッドの空間に余白を持たせた「Emotion」の音の響きや、ドン・チェリーとラティフ・カーンによる「One Dance」の木管楽器と深みのある打楽器タブラの響きは、アルゼンチンのネオ・フォルクロリック・ジャズにも通じる独特の空気を感じさせる。そして、アメリカ西海岸の奇跡、ビルド・アン・アークの聖なるレクイエム「Improvisation Day 2」のスピリチュアリティーによって傷ついた魂は静かに鎮められる。
NujabesやCALMのアートワークも手がけてきたFJD藤田二郎によるジャケットのペインティングには、ここに収められた音楽が秘める世界観が最も美しく象徴されている。燃えさかる太陽が西の空へと沈み、赤紫に染まった夕暮れの雲が幾重にも重なり幻想的な色彩を帯びている。あたりには静かなる闇の足音が響き、一瞬すべての音がやむ。鳥たちは月に向かって羽ばたき、原色の花弁をくねらせる夜の花が妖艶に咲き乱れる。
吉本宏
追記:今週末は7/17(土)、久しぶりのDJパーティー「Soul Souvenirs」がカフェ・アプレミディで開かれますので、皆さんお誘い合わせのうえ、ぜひ遊びにいらしてください!
「Soul Souvenirs」
7/17(土)23時から翌5時までカフェ・アプレミディにて入場無料!
このイヴェントでは純粋に、ただただ音楽を感じたいと思っている。
自分の心に深く響く、強く美しい音楽だけを聴きたいと思っている。
楽しいときは笑顔がこぼれ、哀しいときは涙がこぼれる、感情豊かな人間が生み出した音楽。
Brother, where are you? ──ソウル・ミュージックという言葉に得も言われぬロマンを感じる貴方に、この気持ちは伝わると信じる。
(橋本徹)
DJ's Choice for Soul Souvenirs
Freddy Cole / Brother Where Are You
ブラザー・ホエア・アー・ユー♪ 心の奥底で永遠にこだまする、胸が熱くなるリフレイン。滋味に富んだ歌声が魂のひだまで染みてくる、究極のソウル・ミュージック。オスカー・ブラウン・ジュニアの名曲をナット・キング・コールの弟が歌う一世一代の名演。(橋本徹)
Maxine Brown / We'll Cry Together
Mod達に愛好され続ける女性ソウル・シンガーの1969年作品。個人的には最も好みな時期なのですが、彼女のキャリア的にはいわゆる「隙間」な時期のアルバムかもしれないですね。所々に垣間見られる少しだけポップでほんの少しだけロック、フォークなアプローチが嬉しい。ラヴィン・スプーンフルのカヴァーが秀逸なんですわ。(山下洋)
The Moments / Look At Me
ネオアコとかばっか聴いてた頃、当時ノアビル5FにあったZESTに通ってた。で、そこにちょっとだけソウルの棚があって、表がシルヴィア「Pillow Talk」、裏がモーメンツ「Girls」というアヤしい12インチを買った。これが泥沼の入口だったのだが、このパーティーもそんな小さなレコ棚のような存在でありたいな。(宿口豪)
Celi Bee / Fly Me On The Wings Of Love
深い時間帯から明け方の空気感が物凄く自分の中では大事なシチュエイションで、音楽の力は本当に魔法のようなもの。このアルバムに収録されている「For The Love Of My Man」を聴くと人肌恋しくなり、好きな人を抱きしめたくなる。そう思わせる曲って大切なソウル・ミュージックってことだと思う。(Chintam)
Macky Feary Band / You're Young
僕はハワイが大好きだ。朝から海岸線をドライヴし、澄んだ空、蒼い海、太陽を感じ、浮かれた気分に。もちろんカーステレオからはマッキー・フェアリーの甘い歌声がハワイのメロウな空気を感じさせてくれる。タンタラスの丘で、ホノルルの夜景を見ながら、好きなあの娘とロマンティック・ムードに、みたいなことがあれば最高っ!(ユズル)