新年あけましておめでとうございます。クリスマスも正月もひとりフリー・ジャズ〜スピリチュアル・ジャズを聴いてすごした橋本徹です。
今年の仕事始めは、新たな幕開きに相応しく、リラックス/リフレッシュ/リスタートというテーマでのFM横浜の番組のための選曲&コメント収録でした。そして2/3発売のコンピ『Freedom Suite』のマスタリングとアートワーク入稿。
ジョン・コルトレーンとファラオ・サンダースを愛する視線で「ジャズ来るべきもの」を再訪し、アラン・ベイツ主宰フリーダム音源で綴った「十月革命」の戦士たちへのレクイエム。帯キャップの表には、植草甚一さんのエッセイの「フリーダム・レコードはジャズの勉強にとてもいい」というタイトルをいただきましたが、裏に僕が書いた原稿は、ゴダールの「気狂いピエロ」のラスト・シーンに流れるランボーの詩をちょっと意識してみました。スリーヴの中見開きには、収録作のオリジナル・アルバムと共に、アルバート・アイラーの“Trane was the Father, Pharoah was the Son, I was the Holy Ghost.”という言葉をあしらっています。そしてジャケットの表1と表4は、このページのトップに掲げた中平穂積さんの写真(下が表1で上が表4です)。先日、新宿のDUGでお会いしたご本人も、こういうふうに歳をとれたらと憧れるほど素敵な方でしたが、この写真には僕はとことん惹きつけられます。見入っているうちにいつも思い浮かべるのは、小澤征爾さんの本「ボクの音楽武者修行」に描かれたこんな風景です。
ニューヨークのグリニッチ・ヴィレジでは、黒人が演奏する、いわば本場のジャズを聞いた。演奏する人が黒人であるばかりでなく、聞いている人もほとんど黒人なのだ。初めはその場の雰囲気にひたれなかったが、そのうち彼らが黒人霊歌をやりだした。ドラムと金管楽器とクラリネットで黒人霊歌を演奏しながら、彼らは烈しく体を動かし、のたうち回り、あるいは叫びあるいは泣く。それが少しもわざとらしくなく、いかにも自然なのだ。少しも嘘がなく、無理がない。まったく彼らの音楽なのだ。すべてを忘れてその中に溶けこんで演奏できることほどしあわせなことはあるまい。そのしあわせの獲得のために、彼らは毎日指のトレーニングをし、声の調整をはかり、指揮者はスコアを読んで勉強する。
僕はこれほどジャズの魅力を表した文章と写真はそうないと思うのですが、皆さんはどうでしょうか。『Freedom Suite』のリリースをぜひ心待ちにしていただけたら嬉しいです。
明日は2/17発売のホセ・フェリシアーノのフリー・ソウル・ベスト盤のマスタリングに行ってきます。オープニングから「Light My Fire」(ドアーズ)〜「She's A Woman」(ビートルズ)〜「Golden Lady」(スティーヴィー・ワンダー)〜「Wild World」(キャット・スティーヴンス)という具合に名曲の連続の素晴らしい内容です。そして崇高なまでに胸を突かれるニーナ・シモン盤もまもなくですので、こちらもぜひ楽しみにしていてください。
追記:この連休はひたすらDJ&酒の日々でしたが、昨日・一昨日と2日続けて観た次松大助(ソロ)〜THE MICETEETHのライヴにひどく心を揺さぶられたことを付け加えておきます。今週は新作『Solamente』が素晴らしすぎるカーメン・ランディーのステージを観られるのも本当に楽しみですね。1/16(土)は渋谷のCASE#00001改めbar cacoiで行われるDJパーティー「Soul Souvenirs」にぜひともお越しください。僕らがどれほど気持ちをこめた夜かを理解していただくために、最後にフライヤーに書かれたDJ陣のコメントを転載しておきましょう。ソウルボーイイズム──「決して譲れないぜ己の美学」(by ライムスター)という感じです。
「Soul Souvenirs」
このイヴェントでは純粋に、ただただ音楽を感じたいと思っている。
自分の心に深く響く、強く美しい音楽だけを聴きたいと思っている。
楽しいときは笑顔がこぼれ、哀しいときは涙がこぼれる、感情豊かな人間が生み出した音楽。
Brother, Where Are You? ──ソウル・ミュージックという言葉に得も言われぬロマンを感じる貴方に、この気持ちは伝わると信じる。(橋本徹)
DJ's Choice for Soul Souvenirs
The Voices Of East Harlem / Cashin' In
イントロが流れた瞬間、何かに向かって走り出したくなる。まっすぐに正面を見つめる、心の底から沸き上がる伸びやかな歌声。ドライヴする躍動感と胸が詰まるような瑞々しい甘さ、ひとさじの哀愁。そんな爽やかさと切なさが滲む、かけがえのない青春の刹那のような一曲。(橋本徹)
Chairmen Of The Board / All We Need Is Understanding
高校生時代に最も聴いたレコード、スタイル・カウンシルのセカンド・アルバムのジャケットに写っているレコードを探すこと。当時の日本の一般的なソウル・ミュージックの聴き方としては邪道な行為だったのかもしれないが、ボクは今でもそれが王道だと信じている。とか言っているボクもすっかり「Younger Generation」ではなくなってしまっているのだが……。(山下洋)
Labelle / Moon Shadow
レアでもいいし、そうじゃなくてもいい。今かけるのは恥ずかしいとか、そんな打算もいらなくて。ノスタルジーに浸りたいワケでもなく、シーンを築こうなんて野望もさらさらない。ただただ単純に、僕らの大好きなソウル・ミュージックを一晩中浴びるほど楽しみたいという衝動。それだけなんだな。(宿口豪)
Gloria Lynne / Thank You Early Bird
始まるべくしてスタートした“Soul Souvenirs”。メロウかつ自然に体が揺れ出すような選曲にこだわっていきたいと思っています。レオン・ウェア作のこの曲は、ストリングスの効いた柔らかいグルーヴに切々と歌い上げる抜群なメロディー・ラインが最高なミッド・ソウル大名曲です。(Chintam)
The Melton Brothers Band / Livin' In The City
この曲の存在を知ったのは、カルトーラ・ジャケのサバービア! 僕は2009年、橋本さんと出会ったのだけれど、初めて会ったその日に、この曲の話で盛り上がった。僕にとってこのジャジーさ、エレピの感じ、しゃがれた女性ヴォーカル、全てが最高の一言なのです。生涯、聴き続けるであろう快作!(ユズル)