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2月14日──橋本徹の映画&CD情報
 
最近は映画から何とか生きる歓びをもらっている橋本徹です。
というのも、「ロシュフォールの恋人たち」と「ヴィニシウス〜愛とボサノヴァの日々〜」を立て続けに観てしまったから。
今の自分にはもう昔のようには響かないのかも、なんてことも思いながら映画館に出かけた「ロシュフォール」ですが、とんでもありませんでした。むしろいっそう感激を新たにしています。
ジャック・ドゥミとミシェル・ルグラン。まばたきするのも惜しい、美の女神が宿った映画。とりわけ夢みる硬骨漢ドゥミを惜しむ気持ちが激しく募ります。今日もまた、ヴァレンタインにひとり「ロシュフォール」を観に行く40男というのもどうかと思いつつ、2週続けてシネセゾンに足を向けてしまいました。公開日からカフェ・アプレミディでもアプレミディ・グラン・クリュでも、「これから“ロシュフォール”観に行くんです」「今“ロシュフォール”観てきたところなんです」と話しかけてくださるお客様の笑顔が後を絶たないのも嬉しいことです。不意に映画からの帰り道、もう10何年も前のことですが、ドルレアックとドヌーヴの姉妹が表紙を飾る古い「PARIS MATCH」をパリみやげにプレゼントしてくれた女友だちのことを思い出して、胸がはりさけそうになりました。
「ヴィニシウス」の方は、昨日の午後、試写会に出かけました。ブラジルの最も愛すべき詩人にして作詞家(もちろんいくつもの名曲、戯曲も書いています)、そして外交官でもあったヴィニシウス・ヂ・モライスは、その人間性にも強く惹かれます。貴重な写真やアーカイヴ映像、インタヴューなどを交えて彼の生涯を綴ったフィルムなのですから、僕が涙しないはずはありません。
美しい音楽と美しい女性を愛したピュアリストでありロマンティストの、美しい言葉の数々。へろへろに酔っ払ってジョビンと肩を組み「君の瞳に」を歌うシーンがまぶたに焼きつき、「オサーニャの唄」に魂が震え、「もっとも美しいもの」に心が安らぎ、女性を愛するときはいつも初恋のときのように、なんて語りは座右の銘にしたくなります。自由と友情を愛し、ウイスキーを愛し、リオを愛し、色褪せることのない情熱で魅力的な女性たちと愛し愛され生きることを謳歌した彼の一生と共に、ジョアン・ジルベルト/カルロス・リラ/カエターノ・ヴェローゾ/ジルベルト・ジル/エドゥ・ロボ/シコ・ブアルキ/トッキーニョ/バーデン・パウエルといった偉大なミュージシャンたちも登場して、ヴィニシウスの存在を通してブラジル音楽とブラジル文化の喜怒哀楽に富んだ本質が解き明かされていきますので、ぜひ皆さんもこの春の劇場公開を楽しみにしてください。
ヴィニシウスを偲び、心の光が灯った後は、クアトロで行われたクレア&ザ・リーズンズのライヴに行き、やはりヴィニシウスと美しい音楽と美しい女性をこよなく愛する「usen for Cafe Apres-midi」の友人たち(プラス美女1名)と落ち合いました。春一番が吹いた夜、音楽を通して固く結びついた仲間と酒を酌み交わし、風の舞う夜の街をコートをなびかせて飲み歩くのは最高の気分でした。かけがえのない時間、というのはこういう純粋無為なひとときのことを言うのだと思います。
さて、CDの宣伝が後まわしになってしまいました。僕が監修(というより応援団長という感じですが)を務めさせていただいた、フリー・ソウル・シリーズ初の新録カヴァー・アルバム『Free Soul In The Studio ~ Chill-Out Mellow Ensemble』が、2/18にリリースされます。あれは去年の夏の終わりだったでしょうか、フリッパーズ・ギターやトラットリア・レーベルのA&Rとして旧交があった櫻木景氏がカフェ・アプレミディを訪ねてくれて、「俺らの周辺が集まれば、さらっとこんなカッコ良いCD作れるんだよ、ってこと示そうよ」と誘ってくれ、このプロジェクトが始まりました。90年代というのは、僕らのまわりにとってはそれなりに華やかな時代だったわけですが、その頃のメンツに集まってもらって、ミレニアム打線という感じの顔ぶれで行こう、と話が弾んだわけです。
最初は僕らの世代の原体験とも言えるスペシャルAKAやスタイル・カウンシルといったところがアイディアの源泉で、その名残りは櫻木さん(ダジャレ好き)による帯キャップのコピーにうかがえると思いますが、僕のモードも反映して次第に“チルアウト・メロウ”というコンセプトに向かい、この耽美的で一筋縄では行かない世界観を宿した作品が完成しました。
ミレニアム打線を標榜しただけあって、隅々に至るまで、今の時代へのアンチテーゼというわけでもありませんが、プロダクトとしての質の高さは絶品です。敢えてわかりやすく特筆するなら、コーネリアスなどのアートワークも素晴らしいHELP!北山雅和によるヴィジュアル・デザインは、本当に細かいディテイルまで気が配られていて、その美しいパッケージを手許に置いて音を鳴らすだけで、メロウな響きは一段と官能の色合いを増していきます。僕は先日、二日酔いのベッドで聴く音楽としてもベストの一枚であることを発見しましたが。
先月のタワーレコード新宿店でのレコード・コンサートで、ティミー・トーマスの「Why Can't We Live Together」のカヴァーをかけたときには、INO hidefumiくんも「とても良いですね」と言ってくれました(実直な彼の発言は、ささやかなひとことでも僕には重いのです)。友情出演のカヒミ・カリィが寄せてくれた推薦コメントも、やはり繊細で聡明な彼女らしく的を射ていて素敵でした。僕のライナーノーツ(各曲解説を除く)と併せてここに掲載させていただきますので、その優しく想像力が広がる言葉から、アルバムの内容に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。

フリー・ソウルを知らなくても、
ただ聴くだけで、
この作品はあなたのことを
遠く形のない場所へ連れて行ってくれる。

あなたのもとめる気温と質感、
静けさを持った世界へ。

そこで何かを感じられたら、
それがきっとフリー・ソウルです。

カヒミ・カリィ

90年代の東京において、自分たちの感覚や経験に基づいて、グルーヴィー&メロウなソウル・ミュージック周辺の音楽を愛し、楽しむことから発展していったフリー・ソウル・ムーヴメント。クラブ・パーティーのみならず、90枚以上に及ぶコンピレイションCDという成果によって、聴き手と音楽の愛に満ちた親密な交流、そしてソウル・ミュージックをめぐる視点・価値観にコペルニクス的転換をもたらしたはずだが、その誕生から15年目に当たる2009年、シリーズ初となる前代未聞の新録カヴァー・プロジェクトが始動した。題して『Free Soul In The Studio 〜 Chill-Out Mellow Ensemble』。
90年代渋谷を颯爽と駆け抜け、今やそれぞれに成熟し、音楽シーンで確固たるポジションを築いている精鋭ミュージシャン/プロデューサー/デザイナー/コンパイラーが集った、真に個性的でクールなドリーム・チームによる、言わば“大人になったフリー・ソウル”。
マーヴィン・ゲイやスティーヴィー・ワンダー、テリー・キャリアーからブライアン・オーガーまで、フリー・ソウル〜メロウ・ビーツ世代を中心に愛されて止まない名曲中の名曲ばかりを全12トラック、気持ちよすぎるメロウ&チルアウトなヴァージョンに再生。クルーエルでのソロ名作やカヒミ・カリィから坂本美雨までのプロデュース・ワークで名高い神田朋樹を指令塔に、人気の堀江博久(ニール&イライザ、CORNELIUS GROUP、PUPA)がプレイするフェンダー・ローズ、小島大介(DSK、ポート・オブ・ノーツ)のギターをフィーチャーしたそのサウンドは、21世紀東京が生んだ“インクレディブル・ソウル・バンド”という趣きだ。
トミー・ゲレロのファーストのようなロウな感触に、絶妙なダブワイズやポスト・プロダクションを施した、夢幻的で、映像的なイマジネイションを誘うメランコリックなアンビエンス、ジャック・ジョンソンやマニー・マークらのスプラウト・ハウス・バンドを思わせる、西海岸ネオ・サーフ・カルチャー的な和やかで寛いだピースフルなセッション感も素晴らしく、この“侘びさびのフリー・ソウル”は、まさにクラブ・ジェネレイションのチルアウト・リスニングに相応しい。
制作にあたっての神田朋樹の言葉も引いておこう。

「10年くらい前に“minus one”シリーズというクラシックのレコードを気に入ってよく聴いていたことがありました。後でわかったことなのだけれど、それらは演奏者のための練習用レコードで、いろんなパートが入っていない(入っていないパートを練習するための)、言ってみればカラオケのレコードでした。ある程度、隙間があることで聴く側に想像力を喚起させるようなところが気に入っていた僕は、いつかそんなコンセプトでレコードを作ってみたいと思っていたのです」

実に示唆に富んだ発言だと思う。そう、このアルバムの素晴らしさの秘密は、言うなれば“引きの美学”にあるのだ。コーネリアスなどのアートワークでお馴染みのHELP!北山雅和によるスリーヴ・デザインにも、それは極めてスタイリッシュに貫かれている。そして、この美学があるからこそ、つまりある種のストイシズムによって、本作は凡百のカヴァー企画とは一線を画しているのだ。今の時代にこそ求められていると僕も思う、こうしたメッセージ(アフォリズムと言ってもいいかもしれない)を胸に、快い音の“間”と余韻、心地よいグルーヴと絶品のメロウネスに酔いしれてください。

橋本徹 (SUBURBIA) 
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