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12月12日──橋本徹のクリスマス&コンピ情報

今年もいよいよ年の瀬が近づいてきましたね。アプレミディ・グラン・クリュのクリスマス・メニューも決まり、ご予約いただいた方には僕からのクリスマス・プレゼントも用意いたします。今週末に選曲しようと思っている、言わば“プライヴェイト版『カフェ・アプレミディ・クリスマス』”。2005年に作ったCD『カフェ・アプレミディ・クリスマス』が、東京では今もいろいろなショップで大きく展開されているのが嬉しい限りで、しかも3年経ったというのに「DUSTY GROOVE AMERICA」から「R25」まで幅広く(う〜ん、なかなかの組み合わせですね)推薦されていたと聞いてご満悦なので、ぜひ皆さんに喜んでいただける内容にしたいと考えています。
そして来週ついに、ジャズ・シュプリーム・コンピの第2弾『Fender Rhodes Prayer』編がリリースされます。僕としては次は『Modal Waltz-A-Nova』編と何となく信じていたのですが、今が旬の楽器、とレコード会社の編成会議やCDショップの反応で興奮気味に支持されたフェンダー・ローズをフィーチャーした一枚が、ひと月早く届くことになりました。もちろん僕自身も、みんな大好きフェンダー・ローズ、という印象を抱いていましたから、全く異論はありません。
ハロルド・ローズ博士が第2次世界大戦中に、戦場の兵士たちを癒す目的で発明したというエレクトリック・ピアノがフェンダー・ローズ。その甘美な揺らぎがまどろむように心地よい音色に僕が初めて魅せられたのは、中学生のとき、と言えるでしょうか。洋楽を聴き始めたばかりの頃に出会ったビリー・ジョエルの「素顔のままで」やスティーヴィー・ワンダーの「サンシャイン」、あるいは中3の夏休みに大ヒットしていたユーミンの「守ってあげたい」。もちろん無意識に惹かれたのですが、それは僕の音楽好きとしての原体験と言えるかもしれません。
意識的に好きだなあと思うようになったのは、大学生の頃からですね。80年代末から90年代前半にかけて、レア・グルーヴ〜アシッド・ジャズのムーヴメントと共に血眼で探すようになった70年代の中古レコードがきっかけです。ダニー・ハサウェイに代表されるニュー・ソウルや、ロニー・リストン・スミス/ウェルドン・アーヴァイン/ジェイムス・メイソンといったジャズ・ファンク、マリーナ・ショウ『Who Is This Bitch, Anyway?』のようなジャジー・ソウル。そして当然、それらの音楽性と精神性を受け継ぐ現在進行形のアーティストにも夢中になりました。例えば僕が選曲したコンピ『Talkin' Loud Meets Free Soul』を聴いていただければ、この楽器の重要性とあの頃の熱気やシーンの豊かさがヴィヴィッドに伝わるはずです。
さらに21世紀の到来と共に、マッドリブ〜ビルド・アン・アーク〜キンドレッド・スピリッツを結ぶラインによって、僕の中でフェンダー・ローズの価値はますます高まっていきます。今回の『Fender Rhodes Prayer』でも、彼らの活躍には様々な角度から必然的に光を当てることになりました。
マッドリブはスティーヴィー・ワンダーとウェルドン・アーヴァインにトリビュート盤を捧げていますが、“イエスタデイズ・ニュー・クインテットのキーボード奏者によるソロEP”というようなコンセプチュアルな設定でも、この楽器への偏愛ぶりを強くアピールしています。言うまでもなく現代の他アーティストに与えた影響は計り知れないですし、日本で今フェンダー・ローズが旬の楽器と言われる所以であるINO hidefumiが、登場してきた当初は“和製マッドリブ”というような惹句で評価されていたのも記憶に新しいところです。
ニュー・ソウル的なレパートリーが多いことからも伝わるかと思いますが、今回のセレクションでもうひとつ大切な観点としたのは“祈り”。カルロス・ニーニョ率いるビルド・アン・アークの功績は、その意味においても絶大です。オープニングに置いた胸に迫る崇高なスタンリー・カウエルのカヴァー「Peace With Every Step / Equipoise」の、ネイト・モーガンによるフェンダー・ローズのソロと切々としたドゥワイト・トリブルの歌声は、まさにその象徴なのです。彼らの愛する音楽への熱い想いと、自由と平和への強い願いが、このコンピを貫く通奏低音になるように、と心がけました。このスピリチュアルなヴェクトルの壮大な到達点となるキンドレッド・スピリッツ・アンサンブルの年明けリリース予定作から、現時点でのエクスクルーシヴ音源としてひと足早く「Ja-Mil」(知る人ぞ知るヘイスティングス・ストリート・ジャズ・エクスペリエンスの最高のカヴァーです!)を収めることができたのも、とても嬉しいことでした。
そして、今回のセレクションで僕がいちばん思い入れ深く選んだのは、スティーヴ・キューンの「The Meaning Of Love」です。“祈り”というテーマからも、その密やかで憂いを帯びた内省的なスピリチュアリティーは最深部に位置すると言ってもいいでしょう。歳をとって気持ちがすさんでしまったのか、甘くメロディアスなラヴ・ソングが素直に響かなくなってしまった僕には、いつどんなときに聴いても切なく、最も胸に沁みる名曲なのですが、この曲ができるだけ多くの人の心に響くような並びに、と曲順も腐心したつもりです。メロウな曲も、ファンキーな曲も、グルーヴィーな曲も、そのために配置しました。ジャザノヴァのステファンも単行本「Jazz Supreme」で心の底から好きと特別視していた、ゲイリー・マクファーランドの最期のアレンジに包まれた寂しげなつぶやきに胸を締めつけられるオリジナル、納得のマシュー・ハーバートによるリメイクも鮮やかだった、これぞ“私の考えるジャズ”と言いたくなるカーリン・クロッグ版。どちらも心に伝わる、とてつもなく深く素晴らしい音楽なので、皆さんにもその魅力を感じてもらえたら至上の喜びです。
真夜中にひとり聴けば想いあふれてしまう、愛の意味を問いかける寡黙にして雄弁な“祈り”。静かに目を閉じて、その深遠な響きにじっくりと耳を傾けてみてください。

追記:アプレミディ・セレソンでお買い求めいただいた方に差し上げるCD-R『音楽のある風景 for Jazz Supreme』の1曲目は、絶品のフェンダー・ローズに導かれるシンプリー・レッド「Fairground」(Simplified Version)にしてみました。かつてFree Soul Undergroundのフロアを歓喜と涙で彩った感動のこみ上げ名曲が、しっとりメロウに生まれ変わった名演中の名演。今年の「usen for Cafe Apres-midi」のベストワン、と名選曲家ヒロチカーノも誇らしげに宣言していましたので、お楽しみに!
また、『Jazz Supreme ~ Fender Rhodes Prayer』のリリースに合わせて、12/19からタワーレコード新宿店で、35タイトル試聴機展開やジャズ・シュプリーム・バッジのプレゼントなどの大がかりなフェアが行われます。もちろん僕もセレクションと推薦コメントを寄せていて、1/24にはこの企画のクライマックスとして、僕とINO hidefumiがそれぞれフェンダー・ローズ愛聴盤を持ち寄って対談するレコード・コンサートも開かれますので、こちらもチェックをよろしくです。それでは皆さん、良いクリスマスを!
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