来週発売される僕が監修協力したディスクガイド「エッセンシャル・メロウ・ビーツ」が昨夜届いたばかりで、昼間から仕事もせずに飽かずにページを繰っていた。“マイ・メロウ・ビーツ”というテーマで14人のミュージシャンやDJが各10枚のレコード紹介文を執筆してくれたのだが、皆がそれぞれ本当に“らしい”内容な上に音楽愛にあふれていて、読んでいて嫌な要素が全くない。寄稿メンバーはINO hidefumi/CALM/カルロス・ニーニョ(ビルド・アン・アーク)/ケロ・ワン/小西康陽/ジャイルス・ピーターソン/田中知之(FPM)/DJ Mitsu The Beats/DEV LARGE/中村智昭(カフェ・アプレミディ)/松浦俊夫/丸山雅生(ディスク・デシネ)/MURO/吉本宏という顔ぶれ。最近はずいぶん少なくなりかけている、心から音楽を愛している人たちの存在を実感できるのは、とても救われ、勇気づけられる体験だ(カルロス・ニーニョやDJ Mitsu The Beatsなどは人生規模の愛聴盤という感じで、その熱さが胸に迫るし、入稿がひとりだけ1週間遅れたMUROくんのページは彼の個人史としても読める充実ぶりで、待ったかいがありました!)。
そもそもこの「エッセンシャル・メロウ・ビーツ」の企画は、メロウ・ビーツのコンピCDにライナーノーツを付けるぐらいではフォローしたい情報や思いが多すぎて質・量ともに満足できないから、何か別のブックレットを、というのがアイディアの発端。僕は10,000字におよぶインタヴューと70(+3)枚のディスク紹介で、今の段階で伝えたい最小限のこと、ジェイ・ディーやマッドリブ以降の自分の好きなヒップホップについての概論は表現できたのでは、と思っているので、ぜひメロウ・ビーツの2枚のコンピを聴きながら、その副読本として楽しんでもらえたら嬉しい。黒地にシルヴァーの箔押しの装丁も気に入っているし、腰巻き帯&目次なしで内容告知は剥がせるステッカーで、という僕の希望もかなえられた。正直なところ、ここ数年はあまりディスクガイドを編集することに積極的になれない(むしろ首を傾げたくなるディスクガイドの在り方を不快に思うことの方が多い)状況が続いていたが、ひとつの回答を示せたように思う。要はキャスティングを間違えないことが大切で、すべての寄稿家が純粋に好きな音楽を聴いたり紹介したりする情熱を失っていない幸運に恵まれただけなのだが、編集者としての意識も刺激されて、来年は気軽に読める1,000円ぐらいの本をたくさん作ろう、などとも思った。
版元の営業セクションもがんばってくださり、発売は『Mellow Beats, Rhymes & Visions』と同じ12/19に繰り上げ決定。お待ちかねの、そのメロウ・ビーツ第2弾コンピの収録曲インデックスも最後にリストアップしておくので、いち早くチェックしてみてください。今回は“ピアノ感”に加えて、“ヴァイブ感”もポイント。あの曲もこの曲も入ってます!
追記:先日12/21発行の「BOON」という雑誌でメロウ・ビーツのインタヴュー取材を受けたときに、リニューアルしたばかりだという見本誌をいただいて驚きました。これまでは髪を切りに行ったときにどういうわけか鏡の前に置かれたりして、ストリート・カルチャーの時代を体現するメンズ・ファッション誌だな、という程度の認識だったのですが、今回の変化(進化というより深化という感じ)には一票を投じます。編集長の序文から生真面目なくらい熱く、リニューアル・コンセプトを象徴できる唯一無二、必要不可欠の存在だったはずの井上雄彦「リアル」描き下ろし表紙&特集までの道のりを思うと、長らく編集をなりわいのひとつとしてきた自分としては、その実現への情熱と信念にリスペクトの一言しかありません。マグナム・フォトやアンディー・ウォーホルの記事、人気ショップ4店の架空コンピ選曲の意外なレヴェルの高さにも感心したり、漠然とですが久しぶりに、エディターとしての火照りや疼きを感じた一日でした。最近はノン・プロモーションということがプロモーションになったりする時代だから、メロウ・ビーツに関しては敢えてパブリシティーにこだわっていないのですが、こういう取材(出会い)なら大歓迎。多くの音楽誌と違ってお金もかからないしね、と憎まれ口を叩きたくなるくらい、この前途多難だろうが勇気ある“挑戦”(と書いて“本気”と読みたい)にはエールを贈ろう、と心の底から思いました。
『Mellow Beats, Rhymes & Visions』
Compiled by Toru Hashimoto for Suburbia Factory
01. Caural / In Tandem
02. Kero One / Keep It Alive!
03. Presto feat. 3rd Khind / Searching
04. Funky DL / Don't Even Try It
05. Emanon / More Than You Know
06. Cyne / Growing
07. Sound Providers feat. Little Brother / Braggin & Boastin
08. Rashaan Ahmad & Kero One / Here We Go
09. Aloe Blacc & King Most / With My Friends
10. Pete Philly & Perquisite feat. Senna / Mellow
11. J. Rawls / A Tribute To Bobby
12. Think Twice / Time's Passin Me By
13. Skiggy Rapz / Sail Away
14. Cosiner & Capital / Introducing The Haunt
15. Specifics / My Tunes
16. Thes One / Tribute To Weldon Irvine
17. Flyphonic feat. Cecilia Stalin / I Will
18. J.R. of Momentan feat. The Saint / Fur Euch (Danke)
19. Perquisite / Reminisce
20. Panacea / Limitless Pages